このページの要点
- 選択肢は、違約金を置く、違約金の代わりに立証の補助を置く、理由を示して置かない、の三つ。
- 違約金は1件あたりの定額・重大な違反は倍額・超過分の請求・減免・段階化で設計し、過大にしない。
- 雇用されるスタッフには、違約金や賠償額の予定を置かない(労働基準法16条)。
- 上限を認めるなら、定額の下限を置き、故意・重大な過失や個人情報の漏えいは上限の外に置く。
結論:損害賠償の条だけでは、漏えいの損害はほとんど回収できない
NDAの多くは、違反したときの定めとして「損害を賠償する」という条だけを置いています。債務不履行があれば、契約に書かなくても損害の賠償を請求できる(民法415条)ので、この条は確認の意味しか持ちません。そして実際に請求しようとすると、損害が発生したこと、その額、違反と損害の因果関係を、すべて出す側が立証しなければなりません。情報が漏れたことで取引の機会を失った、信用が傷ついた、という損害は、額を示すのがとくに難しい損害です。映像制作会社の基本契約のレビューでは、賠償の条しかない状態では、実際の回収はゼロに近いと指摘しました。
出す側の選択肢は、大きく三つあります。①違約金(賠償額の予定)を置いて、損害の証明なしに一定額を請求できるようにする。②違約金は置かずに、損害額の立証を助ける定めを置く。③違約金も立証の補助も置かず、その理由を明らかにして個別に立証する。どれを選ぶかは、相手が法人か個人か、雇用されるスタッフか業務委託の相手か、情報が漏れたときの損害がどの程度の幅を持つかで決まります。あわせて、出す側が相手に賠償の上限を認めるかどうかも決めます。
違反に備える定めの強さ上ほど強く縛る書き方
- 違約罰としての違約金損害賠償とは別に違約金を請求できると明記する(賠償額の予定ではない)。見積比較表の作成の委託など、違反そのものを強く抑止したい場面
- 最低額の予定としての違約金違約金を請求でき、実際の損害がそれを上回るときは超過分も請求できる。打診段階の情報や出演者の情報など、損害が大きくなり得る場面
- 賠償額の予定としての違約金違約金の額を損害の額とみなす(民法420条3項の推定どおり)。損害の幅が読みやすく、紛争を短く終わらせたい場面
- 立証の補助違約金は置かず、違反で得た利益や失った取引機会などを損害として請求できると定める。損害の幅が大きく、定額になじまない場面
- 損害賠償の条のみ損害を賠償する、とだけ書く。抑止より関係の維持を重視する場面
違約金は、民法上「賠償額の予定と推定する」とされています(民法420条3項)。超過分も請求したいとき、違約罰としたいときは、その旨をはっきり書く必要があります。
違約金の設計:映像制作会社の基本契約で示した六つの要点
映像制作会社の基本契約のレビューでは、違約金を置くことを提案し、設計の要点を六つにまとめて依頼者に説明しました。ここでの違約金は、当事者が債務の不履行について損害賠償の額をあらかじめ決めておく賠償額の予定(民法420条1項)として働くもので、損害の発生や額を証明しなくても請求できる点に最大の意味があります。
- 違反1件あたりの定額にし、公表前の成果物や出演者の情報を不特定多数が見られる状態に置くなど、重大な違反はその倍額とする。
- 実際の損害が違約金を上回るときは、超過分も請求できると書く。違約金が「最低額の予定」として働き、違約金が上限になってしまうことを防ぐ。
- 甲の判断で全部又は一部を減免できると書く。悪質でない違反にまで機械的に請求しないための余地を残す。
- 違反の類型ごとに金額を段階化する。一律の高額より、裁判所に受け入れられやすい。
- 過大にしない。金額が過大だと公序良俗(民法90条)に反するとして一部が無効とされたり、取引上の優越的地位の濫用と評価されたりするおそれがある。個人のフリーランスを相手に、減額されにくい水準を依頼者に判断してもらう。
- 相手が事業者であることを確かめる。相手が事業者として契約するなら、消費者契約法の違約金の規律は及ばない(消費者契約法2条の「消費者」は、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除いた個人)。
第○条(違約金)
1乙が第○条(秘密保持)、第○条(目的外利用の禁止)又は第○条(撮影等の禁止)の規定に違反したときは、乙は、甲に対し、違反1件につき金○円の違約金を支払う。ただし、公表前の成果物又は出演者に関する情報を不特定多数の者が閲覧できる状態に置いたときは、違反1件につきその2倍の額とする。
2前項の違約金は、損害賠償額の予定の最低額とし、甲に生じた損害の額が違約金の額を超えるときは、甲は、乙に対し、その超える部分の賠償を請求することができる。
3甲は、違反の態様、乙の帰責の程度その他の事情を考慮して、第1項の違約金の全部又は一部を免除することができる。
映像制作会社の基本契約の改定版の考え方を、条文の形にまとめたものです。金額の欄は、依頼者に報酬の水準とのつり合いを確かめてもらったうえで入れます。
依頼者からは「違約金をいくらにすればよいか」という質問がありました。事務所は、個人のフリーランスを相手にした契約で、裁判所に減額されにくい水準として案を示したうえで、金額を上げることはできるが、報酬の水準とかけ離れるほど、公序良俗に反して一部が無効とされるリスクや、優越的地位の濫用と評価されるリスクが高まる、と説明しています。また、違約金は、本体の契約よりも、契約を結ぶ前の打診の段階でこそ必要になる、とも伝えています(NDAをどの形で結ぶか)。打診の段階の漏えいは損害が大きく、しかも損害額の立証が最も難しいからです。違約金は、差止めと組み合わせてはじめて抑止力を持つので、差止めの定め(差止め・事故報告と営業秘密)とあわせて設計します。
違約金をあえて定めないときは、その理由を条文に残す
反対に、違約金を置かないという判断もあります。コーチング講座を運営する個人の依頼者のNDAでは、依頼者のたたき台を精査・完成させる際に、違約金を定めない理由まで条文に書き込みました。
第○条(損害賠償)
1甲及び乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、その損害を賠償する。
2本契約においては、損害賠償額の予定及び違約金を定めない。秘密情報の漏えいによる損害は、情報の種類、漏えいの態様、拡散の範囲及び時期によって著しく異なり、一定の額を定めると現実の損害と乖離するおそれがあるため、当事者は、個別の事案ごとに損害を立証して賠償を求める。
この案件では、賠償の上限も置いていません。相互型のNDAで、双方が自分の顧客の情報を出し合う関係だったため、一方に有利な定額を置くより、損害に応じた賠償の方が双方にとって公平になると見られます。
理由まで書くのは、後で「違約金を書き忘れた」と受け取られないためと、相手に「違約金がないから軽い契約だ」と受け取られないためです。違約金を置くか置かないかは、どちらが正しいという問題ではありません。損害の幅が読みにくい情報(顧客の相談内容など)を扱い、相手と対等な関係にある取引では、置かない設計が合うことがあります。一方、出す側が一方的に情報を渡し、漏えいの損害が大きく、立証も難しい取引では、置く設計が合います。
違約金を置く設計と置かない設計
| 観点 | 置く設計(映像制作会社の基本契約) | 置かない設計(コーチング講座のNDA) |
|---|---|---|
| 情報の流れ | 出す側から受け取る側へ一方向 | 双方が自分の顧客の情報を出し合う |
| 損害の幅 | 公表前の作品や出演者の情報で、損害が大きく、立証が難しい | 情報の種類や拡散の範囲で著しく異なる |
| 相手 | 個人のフリーランス | 対等な事業者どうし |
| 手当て | 最低額の予定・倍額・減免・段階化 | 理由を条文に書き、個別に立証 |
違約金の代わりの立証の補助と、第三者から請求されたときの賠償
違約金を置かない場合でも、損害額の立証を助ける定めを置くことはできます。SNS運用代行会社の外注先向けNDAの改訂版(第21条3項)では、「損害額の立証が困難な場合でも、乙又は第三者が違反によって得た利益、甲が失った取引の機会その他合理的に算定される金額を、損害として請求できる」と定めました。何を手がかりに損害額を算定するかを、あらかじめ合意しておく書き方です。
民事訴訟法には、損害が生じたことが認められるが、損害の性質上その額の立証が極めて困難なときは、裁判所が相当な損害額を認定できる、という定めがあります(民事訴訟法248条)。ただし、これは損害が生じたことが認められる場合の定めで、損害の発生そのものの立証は残ります。契約で算定の手がかりを決めておくのは、損害の発生と額の両方について、議論の出発点をあらかじめ用意しておくためです。
もう一つ、出す側が見落としやすいのが、相手の漏えいによって出す側が第三者から請求を受ける場面です。オンラインの日本語教師講座の運営者が外部講師と結ぶNDAの改訂版(第13条2項)では、次のように定めました。依頼者自身が以前の取引先に守秘義務を負っていて、講師からの漏えいが、そのまま依頼者の違反になり得たためです(業種の言葉で列挙する)。
第○条(第三者からの請求)
1乙の本契約の違反により、甲が第三者(甲が契約を締結していた相手方を含む。)から請求を受けたときは、乙は、甲が支払った判決額又は合理的な和解額及び甲がその対応に要した費用を賠償する。
2甲は、前項の請求を受けたときは、遅滞なく乙に通知し、和解をする前に、乙に意見を述べる機会を与える。
第2項は、受け取る側が知らないうちに高額の和解をされることを防ぐための手続です。出す側にとっても、この手続を踏んでおけば、和解額が「合理的」だったことを示しやすくなります。
個人を相手にした誓約書・NDAと違約金、雇用されるスタッフとの関係
タレントやボランティアのスタッフを抱える配信系の事務所が自作したNDAには、賠償の範囲について、合理的に必要となった対応の費用まで含める、という定めが置かれていました。依頼者からは「対応費用を含むと書いてある。不足があるのか」という質問を受けました。事務所の回答は、この書き方は、相手に「その費用は合理的に必要ではなかった」という反論をあらかじめ与えるうえ、立証は出す側に残り、最も大きな損害である逸失利益や信用の毀損を捉えきれない、というものです。そのうえで、演者を特定する情報の違反に限った違約金を提案しました。実際の損害が違約金を上回るときは、超過分を請求できる形です。
違約金の対象を最も重い情報の違反に絞ったのは、全部の違反に違約金をかけると、相手が個人であるだけに金額の根拠を説明しにくく、過大と評価されやすいからです。対象を絞れば、金額の根拠(その情報が漏れたときに何が起きるか)を具体的に説明できます。
ここで、相手が雇用されるスタッフである場合には、まったく別の制約がかかる点に注意が必要です。労働基準法16条は、使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない、と定めています。違反には罰則があり、6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金の対象になります(同法119条1号)。雇用されるスタッフに守秘義務の誓約書を書いてもらうことはできますが、その誓約書に違約金や賠償額の予定を置くことは、この条に触れるおそれがあります。実際に生じた損害の賠償を求めることまで禁じられているわけではありませんが、額をあらかじめ決めておくことはできません。
違約金を置けるか:相手の立場による違い
| 相手 | 違約金・賠償額の予定 | 注意すること |
|---|---|---|
| 業務委託の相手(法人・個人事業者) | 置ける(民法420条の賠償額の予定) | 過大な額は公序良俗違反(民法90条)や優越的地位の濫用の問題になる |
| 事業として契約する個人 | 消費者契約法の違約金の規律は及ばない | 事業として又は事業のために契約の当事者となっていることを確かめる |
| 雇用されるスタッフ | 置けない(労働基準法16条、罰則は同法119条1号) | 実際に生じた損害の賠償を求めることまでは禁じられていない |
| 名前は業務委託でも、実態が労働者に当たる人 | 同じ問題になり得る | 労働基準法上の労働者(同法9条)に当たるかは、契約の名前ではなく実態で判断される |
雇用と業務委託の両方のスタッフに同じ誓約書を使う事業者は少なくありません。その場合は、違約金の条を業務委託の相手にだけ適用するよう対象を限るか、雇用のスタッフ向けと業務委託の相手向けで誓約書を分けます(業務上の守秘義務誓約書)。雇用契約や就業規則の内容そのものは、このサイトでは扱いません。
賠償の上限:出す側がどこまで受け入れるか
NDAの賠償の上限は、受け取る側から求められることの多い条項です。出す側としては、上限を認めるかどうか、認めるならどの水準で、何を上限の外に置くかを決めます。オンラインスクールの運営スタッフ向けの守秘義務契約書では、依頼者の原案を、次のように改訂しました。
事務所の改訂例 出す側の守秘義務契約書の上限
賠償の範囲と上限
範囲も上限もない原案から、賠償の範囲と上限を定めた形にした。定額との高い方とすることで、報酬が少ない相手でも上限が低くなりすぎず、最も重い漏えいは上限の外に置かれる。
上限の外に何を置くかは、出す側にとって上限の水準そのものより重要です。故意・重大な過失、個人情報の漏えい、顧客の情報の漏えいを上限の外に置けば、上限は「うっかりの小さな違反」の範囲で働くことになり、出す側の大きな損害は守られます。SNS運用代行の案件では、依頼者から「上限の例外の四つの類型(故意・重過失、秘密保持の違反、第三者の権利の侵害、反社会的勢力の排除の違反)は標準的か」という質問があり、業務委託で広く使われる組合せだと回答しています。
ほかの書き方としては、オンライン秘書の業務のNDAで「受領した報酬の額、支払の実績がなければ定額」とした例や、建設分野の地盤調査の提携のNDAで「上限を設けない」と明記した例があります。上限を設けないと明記するのは、本体の業務委託契約に上限があるときに、その上限がNDAにも及ぶと読まれないようにするためです。建設分野のAIの技術者とのNDAでは、相手方が業務委託の上限をNDAにも及ぼす項を新設してきたのに対し、削除を求める理由書を作成しました。
受け取る側の立場では、上限の物差しを工夫した例があります。個人のWebディレクターが取引先から示されたNDAのレビューでは、上限を「直近1年の委託料」とすると案件の単価が小さく相手方が受け入れないため、依頼者が使えるフリーランス向けの補償の、業務の過誤の1事故あたりの支払限度額に合わせた定額に変える提案をしました。あわせて、依頼者が加入しているプランの補償が情報の漏えいを対象にしていないことも確かめて伝えています。
違約金の水準:事務所の書類での分布
事務所が作成したNDAのうち、違約金を置いた書類の水準を並べると、次のようになります。業種も相手も違うので、金額そのものより、どんな取引でどの程度の水準が選ばれているかの参考として見てください。
違約金の水準と書き方の分布
| 水準・書き方 | 事務所の書類での例 |
|---|---|
| 数十万円台 | 合同会社どうしの業務提携のNDA(1件あたり定額)、映像制作会社の基本契約、シェアサロンの利用者の競業の違反 |
| 百万円台 | フランチャイズの加盟店のNDA、「最低違約金」とする型、日本語教師講座の業務提携に付随するNDAの修正版 |
| 数百万円台 | 約40通のうち3通(個人事業者のNDA、設備工事の返還の違反など) |
| 千万円台 | 製造委託のNDA(違反の態様・程度にかかわらず、とする書き方) |
| 契約の総額の2倍 | 約40通のうち1通 |
| 請求の期間を限る | フランチャイズの加盟店のNDA(知った日から3年・終了後5年) |
| 違約罰と明記 | 建設分野の見積比較表の作成の委託(賠償額の予定ではないと明記) |
2024年のオンラインコーチングの契約では、初版にあった違約金を修正版で削除しています。違約金は一度入れたら外せないものではなく、取引の実態に合わせて見直す条項です。
違約金の請求に期間の限りを設けた例(違反を知った日から3年、契約の終了後5年)は、受け取る側にとって、いつまでも違約金の請求を受けるおそれがある状態を避ける工夫です。出す側にとっても、期間を区切ることで違約金の条項が過大と評価されにくくなる面があります。「違反の態様・程度にかかわらず」と書く高額の違約金は、抑止の効果は大きい反面、軽い違反にまで同じ額がかかると読めるため、減免の条や段階化と組み合わせておくのが安全です。
起きがちなこと
よくあるご質問
NDAに違約金は、いくらまで入れられますか?
法律で一律の上限が決まっているわけではありませんが、報酬の水準や想定される損害とかけ離れた額は、公序良俗に反するとして一部が無効とされたり、優越的地位の濫用と評価されたりするおそれがあります。違反の類型ごとに段階化し、減免の余地を残すと、受け入れられやすくなります。
違約金を入れないほうがよいのは、どんな場合ですか?
損害の幅が情報の種類や拡散の範囲で大きく異なり、定額になじまない場合や、相互型で対等な関係の取引などです。事務所の書類では、違約金を定めない理由まで条文に書き、個別に立証して賠償を求める設計にした例があります。
損害額を証明できないときは、どうなりますか?
賠償の条だけでは、損害の発生・額・因果関係をすべて出す側が立証する必要があります。違約金を置くか、違反で得た利益や失った取引機会など算定の手がかりを契約で決めておくと、立証の負担を軽くできます。
アルバイトの誓約書に違約金を書いてもよいですか?
雇用されるスタッフには置かないでください。労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約を禁じています。実際に生じた損害の賠償を求めることまでは禁じられていませんが、額をあらかじめ決めておくことはできません。
個人の受託者から賠償の上限を求められたら、どうすればよいですか?
上限を認めるなら、上限が低くなりすぎないよう定額の下限を置き、故意・重大な過失、個人情報や顧客の情報の漏えいは上限の外に置くのが基本です。本体の契約に上限がある場合は、NDAに上限が及ぶのかどうかも明記しておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、取引の内容や相手の立場によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた秘密保持契約書(NDA)、守秘義務契約書、業務上の守秘義務誓約書、秘密保持を内包した業務委託契約書、共同研究契約書・覚書、試験委託のNDA、PoCの覚書などを、個別の事業者や案件が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会