このページの要点
- 出す側のNDAにも除外事由を置き、除外に当たることの立証を受け取る側に負わせる。
- 立証の言葉は立場で変わる。出す側は「書面により」「客観的資料により」、受け取る側は「合理的な証拠により」。
- 相手の一般的な知識・技能を縛らない旨と、関与前からの汎用のひな形の除外を書き、その中の自社の情報は除外しない。
- 法令による開示は、除外事由ではなく開示の手続として書くと、開示した情報が秘密情報のまま残る。
結論:除外事由は、出す側のNDAにも必要
除外事由とは、秘密情報の定義に当てはまるように見えても、秘密情報として扱わないものを列挙した定めです。一般には、開示を受けた時点で既に公知だった情報、開示の後に受け取る側の責めによらずに公知になった情報、開示を受ける前から受け取る側が持っていた情報、正当な権限を持つ第三者から守秘義務を負わずに受け取った情報、秘密情報を使わずに独自に開発した情報、の五つを並べます。
出す側から見ると、除外事由は自分の保護を削る条のように見えます。しかし、事務所の書類では、出す側が作るNDAにも除外事由を必ず置いています。除外事由がないと、相手が署名をためらい、また争いになったときに、裁判所に範囲を限定して解釈されたり、一部を無効とされたりする余地を残すからです。除外事由は、出す側にとって「譲歩」ではなく、契約全体が有効に働くための「範囲の画定」です(定義の型と組み合わせて考えます)。
とくに、表示の有無を問わない包括的な定義を採るほど、除外事由の役割は大きくなります。包括的な定義は「何でも秘密」に近づくので、「何が秘密でないか」を除外事由ではっきりさせておかないと、範囲の広さそのものが争いの的になるからです。定義を広くとることと、除外事由をきちんと置くことは、一組で考えます。
除外事由のない原案を改訂する
SNS運用代行会社の外注先向けNDAでは、依頼者の原案に除外事由がありませんでした。オンラインスクールの運営スタッフ向けの守秘義務契約書でも、依頼者の原案(全6条)に除外事由はありませんでした。事務所の整備方針の提案書では、次のように説明しています。
事務所の改訂例 除外事由を置く
除外事由
除外事由がないと、個人の受託者が署名をためらう。争いになったときに、合理的な範囲に縮めて読まれたり、一部を無効と判断されたりする余地も残す。立証の負担を受領者に置くことで、出す側の保護は保てる。
改訂の要点は、除外事由を置くことと、除外に当たることの立証を受け取る側に負わせることを、一体で書くことです。除外事由を置いても、受け取る側が「もともと知っていた」と言うだけで秘密情報から外れるのでは、出す側の保護は大きく損なわれます。立証の書き方を次で比べます。
オンラインスクールの守秘義務契約書でも、事務所の版で除外事由の条を新設しました。運営スタッフや協力者が講座の外でも同じ分野で活動している場合、除外事由がないと、講座に関わる前から自分が持っていた知識や、自分で発信してきた内容まで秘密情報に含まれるように読めてしまいます。相手が個人で、同じ分野で活動を続ける人であるほど、除外事由は契約を成り立たせるための条件になります。
ヒヤリングで確かめること除外事由の書き方を決めるための問い
- 相手は、この取引の外でも同じ分野で活動していますか活動しているなら、関与の前からの知識・ひな形の除外と、一般的な技能を縛らない旨を丁寧に書きます。
- 渡す情報の中に、いずれ公開する予定のもの(新商品、作品、講座の内容など)はありますか公開されれば公知の情報として除外されます。公開の前後で扱いが変わることを、相手にも分かるように書いておきます。
- 相手から『前から知っていた』と言われそうな情報はありますかあるなら、立証の書き方(書面か客観的資料か)を厳しめにし、組合せの条を置きます。
除外事由の五つの号を、出す側の目で一つずつ点検する
除外事由の五つの号は、どのNDAでも似た文言で並びますが、細かな言葉で出す側の保護の厚さが変わります。事務所が出す側として作るときに確かめている点を、号ごとにまとめます。
除外事由の号ごとの点検
| 号 | 出す側として確かめる言葉 | 理由 |
|---|---|---|
| 開示の時に既に公知だった情報 | 「開示を受けた時点で」と時点を明記する | 後から公知になった情報と区別し、立証の対象をはっきりさせる |
| 開示の後に公知となった情報 | 「受領者の責めに帰すべき事由によらずに」を入れる | 受け取る側が自分で漏らして公知にした情報が除外されないようにする |
| 受領前から保有していた情報 | 「適法に」保有していたこと、記録で示せることを求める | 他社から不正に得た情報や、言い分だけの保有を除外に含めない |
| 第三者から取得した情報 | 「正当な権限を有する第三者から、守秘義務を負うことなく」と書く | 第三者が漏えいした情報を受け取った場合を除外に含めない |
| 独自に開発した情報 | 「秘密情報によることなく」独自に開発したことを求める | 秘密情報を参考にして作ったものを独自開発と言わせない |
五つの号のどれに当たるかの立証を受け取る側に負わせる一文を、号の後に置きます。
五つの号に加えて、組合せの条(一部が除外事由に当たっても、残りの部分と組合せは秘密情報のまま、という条)を置くと、除外事由が秘密情報の全体を崩すことを防げます(業種の言葉で列挙する)。
立証方法の書き分け:立場で選ぶ言葉が変わる
除外事由に当たることを誰が、何によって示すかは、条文の小さな言葉で大きく変わります。事務所の書類を並べると、出す側として作ったものと、受け取る側としてレビューしたもので、選んでいる言葉がはっきり違います。
除外事由の立証方法の書き方
| 書き方 | どの立場の書類か | 効き方 |
|---|---|---|
| 受領者が書面により立証できるもの | 出す側(日本語教師講座の講師向けNDA) | 書面の証拠がなければ除外に当たらない。出す側に最も有利 |
| 受領者が記録により示すことができるもの | 出す側(コーチング講座のNDA) | 記録に基づくことを求めるが、書面に限らない |
| 受領者が客観的資料により明確に立証できるもの | 出す側(SNS運用代行のNDA) | 主観的な言い分を排除する |
| 合理的な証拠により証明できるもの | 受け取る側のレビューでの修正提案 | 公知であることは書面が残っていないのが普通なので、証拠の種類を限らない |
受け取る側のレビューでは、立証を「書面又は電磁的記録」に限るただし書を問題にしました。ある情報が世間に知られていることは、書面が残っていないのが普通です。裁判所は口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果から自由な心証で事実を認めるのが原則で(民事訴訟法247条)、契約で証拠の種類を絞ると、受け取る側は本来示せるはずの事実を示せなくなります。そこで「合理的な証拠により」という修正を提案しました。
出す側として「客観的資料により」と書くときは、受け取る側が実際に何を示せば除外に当たるのかを想定しておくと、条項の説明がしやすくなります。日付の入った自分の過去の資料や納品物、開示より前に公開された記事や公報、第三者との契約書などがその例です。こうした資料で示せない「前から知っていた」という言い分だけでは除外に当たらない、というのが、この書き方の狙いです。
同じ事務所が、出す側として作る書類では「書面により」「客観的資料により」と、出す側に有利な言葉を選んでいます。矛盾しているのではなく、立場によって正しい言葉が違う、ということです。自社が出す側なら書面・客観的資料を、受け取る側なら合理的な証拠を、と覚えておくと、相手方の書式を読むときにも役立ちます。
第○条(秘密情報から除外される情報)
1前条の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する情報は、秘密情報に含まれない。ただし、乙が当該各号に該当することを客観的資料により明らかにした場合に限る。
2(1)開示を受けた時点で既に公知であった情報 (2)開示を受けた後に乙の責めに帰すべき事由によらずに公知となった情報 (3)開示を受ける前から乙が適法に保有していた情報 (4)正当な権限を有する第三者から守秘義務を負うことなく適法に取得した情報 (5)秘密情報によることなく乙が独自に開発した情報
3前項の除外は、本契約のうち秘密情報に関するすべての規定に適用する。
第3項は、除外が定義の条だけに閉じず、成果物・ノウハウの条や返還の条にも及ぶことを明らかにするための一文です。
一般的な知識・技能と、汎用のひな形(残存知識)
NDAの目的外利用の禁止に、範囲の定めのない秘密情報の定義と、終期のない存続期間が重なると、受け取る側は、仕事を通じて身につけた一般的な手法まで使えなくなるおそれがあります。受け取る側の点検では、記憶にとどまる一般的な知識・技能・経験を、秘密情報を特定して開示・使用しない限り他の業務に用いても違反にならない、という「残存知識」の条を提案した例があります。
このレビューでは、受け取る側が仕事で身につけた進行管理の手法まで、相手方の秘密情報を使ったと言われかねない構造を問題にしました。目的外使用の禁止そのものは標準的な条項ですが、秘密情報の範囲に限定がなく、存続期間に終わりがない契約では、三つが重なって受け取る側の仕事の幅を縛ります。
第○条(一般的な知識・技能)
1乙が本契約を履行する中で身につけ、乙の記憶に残っている一般的な知識、技能及び経験を、秘密情報を特定して開示し、又は使用することなく、他の業務に用いることは、本契約の違反とならない。
受け取る側のレビューで提案した残存知識の条の考え方です。「秘密情報を特定して開示・使用することなく」という限定があるので、資料そのものを持ち出したり、特定の顧客の情報を使ったりすることまでは許されません。
出す側のNDAでも、これを否定し切る書き方は得策ではありません。相手の職業活動そのものを縛るように読める条項は、相手の署名をためらわせ、限定解釈の材料にもなります。SNS運用代行のNDAでは、目的外利用の禁止の条に、次の一文を置きました。
第○条(目的外利用の禁止)
1乙は、秘密情報を本目的以外の目的のために利用してはならない。
2前項の規定は、乙の一般的な知識、経験、技能又は職業活動そのものを制限する趣旨ではない。
あわせて、成果物やノウハウを秘密情報として扱う条にも、除外を及ぼす必要があります。この案件では、依頼者から「受託者がもともと持っている汎用のテンプレートまで囲い込まれないか」という質問があり、次の補足を加えました。
第○条(成果物・ノウハウの取扱い)第○項
1乙が本件業務に関与する前から保有していた汎用的なひな形、テンプレート、一般的な知識及び技能は、秘密情報に含まれない。ただし、その中に含まれる甲又はクライアントの秘密情報については、この限りでない。
除外事由の条が「前条の定めにかかわらず」と書かれていると、除外はその前条(定義の条)にだけ及び、別の条で秘密情報として扱うと定めた成果物・ノウハウには及ばないと読まれるおそれがあります。
受け取る側が持ち込んだ道具まで囲い込むと、受け取る側は別の取引先で同じ道具を使えなくなり、契約を結ぶこと自体をためらいます。出す側として本当に守りたいのは、ひな形そのものではなく、そこに入った自社と自社の顧客の情報です。ただし書はその線を引くためのものです。
ご質問と回答受託者の道具とノウハウ
- 受託者がもともと持っている汎用のテンプレートやノウハウまで、NDAで囲い込まれませんか成果物・ノウハウの条の中に、除外の定めを明記する補足をしました。関与する前から持っていたひな形やテンプレート、一般的な知識や技能は秘密情報に含めず、ただし、そこに入り込んだ甲やクライアントの秘密情報までは除外しない、という線の引き方です。
残存知識をめぐる、出す側と受け取る側の視点
出す側(開示者)の設計
- 一般的な知識・経験・技能や職業活動そのものを制限しない旨を書き、契約の有効性を守る。
- 関与前からの汎用のひな形は除外し、そこに入った自社の情報は除外しない、と線を引く。
受け取る側(受領者)の点検
- 目的外使用の禁止、範囲の限定のない定義、終わりのない存続期間が重なっていないか。
- 秘密情報を特定して開示・使用しない限り、記憶にとどまる一般的な知識を他の業務に使える旨の条があるか。
条どうしのすき間を点検する
除外事由や例外の条は、それが「どの条に及ぶか」を確かめないと、思わぬすき間が残ります。事務所が依頼者の質問を受けてNDAを点検するときに、必ず見ている箇所をまとめると次のとおりです。
- 除外事由の及ぶ範囲:「前条にかかわらず」「本条において」といった言葉で、除外が定義の条だけに閉じていないか。成果物・ノウハウの条、目的外利用の条、返還の条にも及ぶか。
- 相互型の準用の範囲:甲が乙の情報を受け取る場面に条を準用するとき、準用する条の列挙に除外事由の条が入っているか。入っていないと、甲が受け取る場面では除外が当然には働かない。
- 例外の及ぶ範囲:専門家への相談の例外を一つの条に置いたのに、別の条に「事前の承諾なく第三者に開示してはならない」とあれば、その条にも例外が及ぶと書く(開示の範囲)。
- 定義語のそろい:「本目的」「本件業務」など、除外事由の中で使う言葉が、契約の中で定義されているか。条項を削ったときに、定義だけが消えていないか。受け取る側の案件で、依頼者の判断により修正の提案を13から5、さらに7に絞ったときには、落とした提案で定義していた言葉(「本件目的」など)が未定義のまま残らないよう、文言を外して組み直しました。
この点検は、条の数が多いNDAほど重要です。条文を一つ足すたびに、他の条との関係が一つ増えるからです。依頼者から質問を受けて条を補うときも、補った条が他の条の除外や例外とどうつながるかを、同じ順番で確かめ直しています。
「法令による開示」を除外事由に置くか、開示の手続に置くか
法令や裁判所・行政機関の命令によって開示を求められる場面は、二通りの書き方があります。一つは除外事由の号に「法令により開示が義務付けられた情報」を並べる書き方、もう一つは除外事由とは別に「開示できる場合」として、事前又は事後の通知、開示を必要最小限にとどめることなどの手続を定める書き方です。
法令による開示の二つの書き方
| 書き方 | 書き方の例 | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| 除外事由の一つとして置く | 「次の各号の情報は秘密情報に含まれない。…法令により開示が義務付けられた情報」 | 開示した情報が、以後も秘密情報から外れたと読まれる余地がある |
| 開示の手続として別に置く | 「法令に基づき開示を求められたときは、法令で禁じられる場合を除き事前に、困難なときは事後速やかに甲に通知し、必要最小限の範囲で開示できる」 | 開示しても、その情報は秘密情報のまま残り、他の場面では守らせ続けられる |
事務所が出す側として作ったNDAには、後者の書き方を選んだものがあります(日本語教師講座の講師向けNDA、コーチング講座のNDAなど)。裁判所や行政機関に出したことは、その情報を世間に公開したことではありません。開示できる場面を手続として定めておけば、その場面で開示しても違反にならず、しかもその情報は他の場面では秘密情報として守らせ続けられます。通知の手順の詳細は、研究データの扱い(共同研究・試験受託)や紛争での証拠の提出とあわせて考えます。
手続として書く形をさらに進めた例もあります。美容機器のメーカーから製品の安全性試験を受託する会社のNDAは、メーカー側の書式をもとにしたもので、法令に基づいて開示するときは、受託者が秘密を保護するための手続の請求などの措置を講じる、と定めていました。開示を求められたら黙って出すのではなく、出す範囲を絞り、相手方にも秘密としての扱いを求める。出す側が守りたいのは、開示の場面でも秘密が秘密のまま扱われることだ、という考え方がよく表れています。
起きがちなこと
よくあるご質問
出す側に立つなら、除外事由は入れないほうが有利ですか?
入れたほうが安全です。除外事由がないと、相手が署名をためらうほか、争いになったときに範囲を縮めて読まれたり、一部を無効と判断されたりする余地を残します。除外事由を置き、除外に当たることの立証を受け取る側に負わせる書き方で、保護は保てます。
自分のノウハウまでNDAで縛られることはありますか?
書き方によってはあり得ます。受け取る側の一般的な知識・経験・技能を制限する趣旨ではないこと、関与の前から持っていた汎用のひな形やテンプレートは秘密情報に含まれないことを書いておくと、線が引けます。
公知の情報かどうかは、誰が証明するのですか?
契約で決めます。出す側が作るNDAでは「受領者が書面により立証できるもの」「客観的資料により明確に立証できるもの」のように受け取る側に負わせる書き方が多く、受け取る側のレビューでは「合理的な証拠により」と証拠の種類を限らない修正を提案することがあります。
裁判所に提出した情報は、秘密情報でなくなりますか?
契約の書き方によります。法令による開示を除外事由の一つとして置くと、開示した情報が以後も秘密情報から外れたと読まれる余地があります。除外事由とは別に、通知などの手続を定めた「開示できる場合」として書いておけば、その情報は秘密情報のまま残ります。
相互型のNDAで気をつけることはありますか?
準用の範囲です。一方の立場で書いた条を相手方にも準用するとき、準用する条の列挙に除外事由の条や例外の条が入っているかを確かめます。入っていないと、自社が受け取る側に回った場面で除外や例外が当然には働きません。
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