共同研究・試験受託・開発・PoCの秘密保持

研究・試験・開発の段階では、秘密保持と、成果・データの帰属、発表、目的外利用が絡み合います。

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当事者の定義が、議決権の半数以上を持つ会社まで含む書き方になっていれば、契約書に名前のない会社にまで研究データが渡り得ます。

このページの要点

  • 当事者は契約の相手に限り、グループ会社の関与は事前の書面による承諾で認める。
  • 発表の事前通知は未公表の秘密情報や特許出願が必要な発明に限り、延期は正当な理由がある場合に上限を付けて認める。
  • 児童などの個人情報の目的外利用を具体的に禁じ、研究データの保存を返還・廃棄の例外にする。
  • 開発の成果は直ちに報告させ、帰属が決まるまで秘密情報とみなす。国外への持出しは承諾制にする。

結論:研究・試験・開発の段階では、秘密保持と成果・データ・発表を一緒に設計する

共同研究や試作、製品の試験の受託、技術の開発・支援、PoC(本格的な導入の前に、効果や実現の可能性を小さく試す取組み)の段階では、秘密保持だけを切り離して決めることができません。相手から受け取った情報をもとに新しい成果が生まれ、その成果やデータが誰のものか、論文や広告で発表してよいか、相手のグループ会社にも情報が渡るのか、といった論点が、秘密保持の条と絡み合うからです。

このページでは、事務所が関わった大学と企業の共同研究の契約・覚書、美容機器の安全性試験の受託、AIによる需要予測ツールの開発、特殊なロボットの設計・技術支援、物品を提供するサービスの無償のPoCの書類から、研究・試験・開発の段階の秘密保持の論点を整理します。出す側の立場だけでなく、研究機関や受託者の側から出す側の書式を点検した場面も含みます。

研究・試験・開発の段階で、秘密保持と一緒に決めること

当事者の範囲グループ会社を含めるか
情報と試料何を渡し、何に使ってよいか
成果・データ誰に帰属し、どう保存するか
発表論文・広告で公表してよいか
終了後返還・保存・存続期間

ヒヤリングで確かめること研究・試験・開発の書類を作るための問い

  1. 相手に渡すのは、情報だけですか、試作品・試料・機器も渡しますか現物を渡すなら、解析やリバースエンジニアリングの扱い、返却の方法を決めます。
  2. 研究や試験の中で、個人の情報(参加者・児童・利用者)を扱いますか扱うなら、目的外利用の具体的な禁止、グループ会社への提供の禁止、存続期間の書き分けが必要です。
  3. 成果を論文・学会・広告で発表する予定はありますか発表の事前通知の範囲、延期の理由と上限、広告への利用の可否を決めます。
  4. 相手は、グループ会社や外部の委託先と一緒に作業しますか当事者の範囲を限り、関与させる会社には同じ義務を負わせてから承諾します。
  5. 技術やデータを国外に持ち出す可能性はありますか国外への持出し・国外のサーバへの保存を承諾制にし、輸出管理の判断の責任の所在を決めます。

相手方の範囲:グループ会社と「代表して」

大学(研究代表者の側)と企業が、新しい機器を使った子ども向けの教育プログラムを共同で研究する契約のレビューでは、企業側の原案が、企業の議決権の半数以上を持つ会社まで当事者に含める定義になっていることを指摘しました。この一文があると、秘密情報や成果、研究データを受け取る主体が、企業のグループ会社にまで広がります。大学の側から見ると、契約書に名前の出てこない会社に、児童の情報を含む研究データが渡り得ることになります。

事務所の改訂例 当事者の範囲を契約の相手に限る

当事者の定義

改訂前企業には、その議決権の50%以上を保有する会社を含む。(企業側の原案と見られるもの)
改訂後この一文を削除し、グループ会社が研究に関与するときは、大学の事前の書面による承諾を要する。

情報・成果・研究データの受領主体が、契約書に名前のない会社に広がらないようにするため。

覚書の名義

改訂前「乙グループを代表して」締結する。
改訂後契約の主体を企業そのものに限る。

「代表して」では、誰が義務を負う当事者なのかがあいまいになるため。

グループ会社を当事者に含める書き方は、企業どうしの取引ではよく見かけますが、研究データや個人の情報を渡す取引では、受け取る主体を契約の相手に限っておく方が安全です。どうしてもグループ会社に関与させる必要があるなら、関与させる会社を特定し、その会社にも同じ義務を負わせる手当てをしてから、事前の承諾で認める形にします。この考え方は、通常のNDAで再委託先に情報を渡すときの書き方と同じです(目的外利用と開示の範囲)。

発表の自由と、延期の上限

大学の研究者にとって、研究の成果を論文や学会で発表することは、研究そのものの目的です。一方、企業の側は、未公表の技術や、特許の出願前の発明が発表によって公になることを避けたいと考えます。共同研究の契約の最終版では、この二つを次のように調整しました。

条文例

第○条(研究成果の発表)

1大学は、研究成果を発表しようとする場合において、発表の内容に企業の未公表の秘密情報又は特許出願が必要な発明が含まれるときに限り、事前に企業に通知する。

2企業は、前項の通知を受けたときは、特許出願の準備その他の正当な理由がある場合に限り、発表の延期を求めることができる。延期の期間は、通知を受けた日から最長90日とする。

3企業は、研究の結果が期待と異なること、又は製品の評価若しくは営業の上で不利であることを理由として、発表の延期、内容の修正又は撤回を求めることはできない。

4大学は、研究倫理の審査、公的研究費の報告、利益相反の開示及び監査のために必要な最小限の範囲で、秘密情報を開示することができる。

共同研究の契約の最終版の考え方を、条文の形にまとめたものです。

第3項は、とくに大切な一文です。企業の製品を使った研究で、結果が企業にとって不利だったときに、発表を止められるとすれば、研究の中立性が損なわれます。延期の期間に上限を置き、結果が不利であることを理由にした延期・修正・撤回を認めないことで、企業の正当な利益と研究の自由を両立させています。第4項は、研究機関が負う外部への説明の責任のために、秘密保持の例外を置くものです。研究倫理の審査や公的研究費の報告で情報を出せないとすれば、研究機関はそもそも研究を進められません。

出す側(企業)の立場から見ても、この調整には意味があります。発表の前に通知を受けられる場面を「未公表の秘密情報又は特許出願が必要な発明が含まれるとき」に絞れば、通知の対象がはっきりし、見落としが減ります。何でも事前に確認させる書き方は、研究機関の側が受け入れにくく、結局は交渉が長引きます。

研究の情報の保護:目的外利用の具体化と、存続・データの保存

この共同研究では、児童、保護者、教職員の個人情報や、授業の映像・音声、行動の観察の記録を扱います。レビューでは、目的外利用の禁止を具体化し、これらの情報を、AIモデルや機械学習、製品の改善、広告、投資家向けの説明に使わないこと、親会社・子会社・委託先にも出さないことを明記するよう提案しました。さらに、大学の名前、研究者の名前、研究を実施した事実、成果を、企業の広告や宣伝に使うことも禁じています。

共同研究で具体化した目的外利用の禁止

対象禁じた利用
児童等の個人情報・映像・音声・行動の観察の記録AIモデル・機械学習・製品の改善・広告・投資家向けの説明への利用、親会社・子会社・委託先への提供
大学名・研究者名・実施の事実・成果企業の広告・宣伝への利用
第三者との類似の研究企業の秘密情報や未公表の技術を使った競合製品の共同開発に限って制限し、学術研究や公的研究費による研究は除外

三つ目の類似の研究の制限は、研究機関の側の自由を守るための限定です。「第三者と類似の研究をしてはならない」と広く書けば、大学の研究者は、同じ分野の研究をほかの機関と行えなくなります。制限の対象を「企業の秘密情報や未公表の技術を使った競合製品の共同開発」に限ることで、企業の守りたいもの(自社の技術が他社の製品に使われること)だけを守る形にしています。

存続期間とデータの保存も、通常のNDAとは違う設計が必要です。共同研究の秘密保持を「終了後5年又は公知となるまで(早い方)」と一律にすると、児童・保護者・教職員の情報や、研究倫理の上で保護が必要な情報、未公表の研究データが、5年で保護の外に出てしまいます。レビューでは、情報の性質に応じて必要な期間とする書き分けを提案しました(存続期間の設計)。研究データは、研究倫理の審査、研究不正の防止、監査、論文の検証のために保存が必要なので、返還・廃棄の例外として明記し、企業の側から返還・廃棄を請求できないとしています(返還・廃棄・証明)。

NDAの先行と、覚書での安全の責任の分け方

この共同研究では、共同研究の契約の秘密保持の条を「既に締結された秘密保持契約に従う」とし、NDAを先に結ぶ構成を採っていました。研究の内容を相談する段階から情報が行き交うので、共同研究の契約を結ぶ前にNDAで守っておく、という順番です。この場合、NDAと共同研究の契約で期間や例外が食い違わないよう、共同研究の契約の側で何を上書きするのか(たとえば、研究データの保存の例外や、発表の例外)を明らかにしておく必要があります。

あわせて結ばれた覚書では、教育プログラムの実施にあたって「大学が安全の確保、説明、保護者への対応に主体的に対応する」という書き方がありました。レビューでは、これでは製品そのものの安全性まで大学に寄ってしまうと指摘し、運営上の安全管理(実施の場の管理)と、製品の設計・対象年齢・警告の表示を分けること、製造物責任法上の責任を軽減しないと明記すること、対象年齢や推奨の条件を書面で明示する義務、事故のときの相互の通知と協力の条を置くことを提案しました。

安全の責任は秘密保持そのものの論点ではありませんが、試作品や製品を渡して研究・試験をしてもらう取引では、秘密保持の書類と同じ時期に、同じ相手と決める事項です。秘密保持の書類だけを整えて、製品の安全の責任があいまいなまま研究が始まる、ということがないよう、書類の組合せで考えます。

試験の受託:開示者の書式に出てくる条項

美容機器のメーカーから製品の安全性試験を受託する会社のNDAと試験委託の基本契約は、開示者であるメーカー側の書式をもとにしたものでした。出す側が試験を委託するときにどんな条項を置くのかを知るうえで、参考になる書き方が並んでいます。NDAと試験委託の基本契約が組になっているのは、試験の前に製品の情報(出願中の特許の情報や、広告宣伝の予定の内容など)を渡す段階と、試験そのものの条件を決める段階とが分かれているためと見られます。

試験の委託者(開示者)の書式に出てくる条項

条項内容受託者の側で確かめること
新たな発明等の通知秘密情報に基づいて生まれた発明・考案・ノウハウ等を、遅滞なく通知し、無償で開示する受託者が独自に持っていた技術との区別、帰属の定め
解析の禁止試料の解析・リバースエンジニアリングを禁じる試験そのものに必要な分析が禁止に含まれないか
資料の開示の請求違反の立証や損害の算定に必要な資料の開示を求められる求められる資料の範囲と、受託者の他の顧客の情報の扱い
法令による開示法令に基づいて開示するときは、秘密を保護するための手続の請求などの措置を講じる措置の費用と、間に合わない場合の扱い

新たな発明等の通知と無償の開示は、開示者にとっては、自社の情報から生まれた成果を確実に把握するための条項です。一方、受託者にとっては、自分の技術やノウハウまで無償で開示させられるおそれがあるので、「秘密情報に基づいて」生まれたものに限られているか、受託者がもともと持っていた技術は除かれているかを確かめることになります(除外事由と残存知識)。

開発・技術支援・PoCの段階のNDA

AIによる需要予測ツールの開発のNDAでは、開示の目的を具体的に特定したうえで、リバースエンジニアリングや、ソースコード・アルゴリズムを取得する行為を禁じました。秘密情報を使って得られた技術的な成果は直ちに報告し、帰属は協議で決め、協議で決まるまでは成果も秘密情報とみなす、としています。帰属が決まる前の成果を宙に浮かせず、とりあえず秘密情報として守っておく書き方で、開発の途中で関係が終わったときにも、成果の扱いで揉めにくくなります。

開示の目的を具体的に特定しておくことは、開発の段階でとくに重要です。目的が「本件の検討のため」のように広いと、受け取った仕様やデータを相手が自社の別の製品の開発に使っても、目的の内か外かで争いになります。開発の対象、渡すデータの用途、検討の期間まで書いておけば、目的外利用の禁止が具体的に働きます(表示方式か包括方式かでも、開発のNDAの定義の書き方に触れています)。

条文例

第○条(開発の過程で得られた成果)

1乙は、秘密情報を利用して技術的な成果(発明、考案、ノウハウ、プログラム、データその他一切の成果をいう。)を得たときは、直ちに甲に報告する。

2前項の成果の帰属は、甲乙協議のうえ定める。協議が調うまでの間、当該成果は甲の秘密情報とみなし、本契約を適用する。

3乙は、秘密情報として開示されたプログラム、試作品その他の物について、リバースエンジニアリング、逆コンパイルその他ソースコード又はアルゴリズムを取得するための行為をしてはならない。

AIによる需要予測ツールの開発のNDAの考え方を、条文の形にまとめたものです。第2項の「みなす」は、帰属が決まるまでの暫定的な扱いで、帰属そのものを決めるものではありません。

特殊なロボットの設計・技術支援を受ける技術者のNDAの修正版では、国外への持出し、国外のサーバへの保存、外国の法人などへの開示を事前の承諾制にしました。ただし、輸出の管理(外国為替及び外国貿易法の規制)に当たるかどうかの判断の義務を受託者に負わせず、判断と対応は委託者の責任としています。技術の内容を最もよく知っているのは委託者で、該当するかどうかを受託者に判断させるのは酷だからです。返還・消去については、法定の保存、バックアップ、技術的に直ちに消去できない情報を、秘密保持を続けることを条件に手元に残せるとしました。レビューでは、AIの学習済みのモデルに情報が残る、という新しい論点も指摘しています。学習に使った後でデータを消しても、モデルの中に情報の痕跡が残り得るからです(生成AI・外部サービスへの入力)。

条文例

第○条(国外への持出し等)

1乙は、甲の事前の書面による承諾を得ない限り、秘密情報を国外に持ち出し、国外に所在するサーバに保存し、又は外国の法人その他の外国の者に開示してはならない。

2秘密情報が外国為替及び外国貿易法その他の輸出管理に関する法令の規制の対象に該当するか否かの判断及びこれに伴う手続は、甲の責任において行う。甲は、規制の対象に該当する秘密情報を開示するときは、あらかじめ乙にその旨を通知する。

技術支援のNDAの修正版の考え方をまとめたものです。第2項の後段の通知は、受託者が規制の対象であることを知らずに国外の協力者に情報を渡すことを防ぐための手当てです。

物品を提供するサービスの無償のPoCの覚書では、覚書の中の秘密保持の条について、覚書そのものの利用や保存とぶつからないこと、委託先やクラウドのサービスへの開示を認めることを確かめました。PoCは小さな取組みでも、相手の社内の担当者だけでなく、相手が使う委託先やシステムに情報が渡ることがあります。秘密保持を厳しく書きすぎると、PoCの運営そのものができなくなるので、実際の運営で情報が流れる先を確かめて、開示できる範囲に入れておきます。

覚書そのものの利用や保存とぶつからないこと、というのは、覚書の内容まで秘密情報に含めたときに起きる問題です。当事者は、覚書を社内の決裁に回したり、監査のために保存したり、PoCの結果を踏まえて本格的な契約を検討したりするときに、覚書を使います。それが秘密情報の目的外利用や開示に当たるように読める書き方では、覚書を結んだこと自体が扱いにくくなります。付随の書類ほど、何を守り、何は普通に使ってよいのかを書いておくことが大切です。

研究・試験・開発の段階の、出す側と受け取る側の視点

出す側(開示者)の設計

  • 当事者の範囲を契約の相手に限り、グループ会社の関与は事前の承諾で認める。
  • 解析・リバースエンジニアリングの禁止と、成果の報告・帰属の協議、協議までの秘密情報としての扱いを書く。
  • 国外への持出しや外国のサーバへの保存を承諾制にする。輸出管理の判断の責任は、技術を知る側に置く。

受け取る側(受領者)の点検

  • 研究機関なら、発表の自由、研究倫理・公的研究費・監査のための開示、研究データの保存の例外があるかを見る。
  • 受託者なら、新たな発明の無償の開示が「秘密情報に基づくもの」に限られ、自分の技術が除かれているかを見る。
  • 類似の研究・開発の制限が、相手の守りたいものに見合った範囲に限られているかを見る。

起きがちなこと

よくあるご質問

共同研究では、NDAとは別に何を決めればよいですか?

当事者の範囲(グループ会社を含めるか)、成果とデータの帰属と保存、論文や学会での発表の扱い、目的外利用の具体的な禁止、終了後の返還と保存の例外です。研究の相談の段階から情報が行き交うなら、NDAを先に結び、共同研究の契約で上書きする事項を明らかにしておきます。

研究の結果を論文にすることを、企業に止められますか?

契約しだいですが、事務所が関わった共同研究の契約では、事前の通知は未公表の秘密情報や特許出願が必要な発明を含む場合に限り、延期は正当な理由がある場合に最長90日、結果が期待と異なることや営業上不利であることを理由とする延期・修正・撤回は求められない、と定めました。

試験を受けた側が発明をしたら、誰のものになりますか?

契約で決めます。委託者の書式では、秘密情報に基づいて生まれた発明等を遅滞なく通知し、無償で開示させる条項が置かれることがあります。受託者の側では、対象が秘密情報に基づくものに限られ、自分がもともと持っていた技術が除かれているかを確かめます。

子会社やグループ会社も当事者に含めてよいですか?

含めることはできますが、研究データや個人の情報を渡す取引では、受け取る主体が契約書に名前のない会社に広がるおそれがあります。当事者は契約の相手に限り、グループ会社の関与は事前の書面による承諾で認める形が安全です。

開発の途中でできた成果は、どう扱えばよいですか?

秘密情報を使って得られた技術的な成果は直ちに報告し、帰属は協議で決め、協議で決まるまでは成果も秘密情報とみなす、という書き方があります。帰属が決まる前に関係が終わっても、成果が宙に浮かずに済みます。

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