目的外利用と開示の範囲:誰に・どこで・何のために

「第三者に開示してはならない」の一文だけでは、アシスタント・家族・カフェでの作業を規律できません。

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弁護士に相談しようとした受託者が、契約上は承諾が要るように読めて相談をためらう。開示できる場面を書いていないNDAでは、こうしたことが起きます。

このページの要点

  • 目的を具体的に書き、類似作品の企画・競業・内部評価など、警戒すべき利用は名指しで禁じる。
  • 業務従事者に同等の義務を負わせ、その行為を受け取る側の行為とみなす。同居家族は業務の実態で禁止か条件付きかを選ぶ。
  • 再委託を認めるなら、業務委託契約の再委託の条とNDAの第三者開示の条をつなげる。
  • 専門家への相談、法令による開示、自己の権利の行使・防御のための開示、公益通報やフリーランス法の申出は、例外として確保する。

結論:「第三者に開示しない」だけでは、誰に・どこで・何のために、が決まらない

NDAの中心にある義務は、目的外利用の禁止と、第三者への開示の禁止です。けれども「第三者に開示してはならない」という一文だけでは、受け取る側が雇ったアシスタントに作業させること、自宅で家族が画面を見ること、カフェで隣の人に見られること、作業画面が配信に映り込むことを、はっきり規律できません。反対に、受け取る側が弁護士に相談すること、裁判所に証拠を出すこと、公益通報をすることまで禁じているように読める書き方は、契約の有効性そのものを危うくします。

出す側のNDAで決めておくべきことは、四つに整理できます。①受け取る側が使う人(業務従事者)にどう守らせるか、②開示してはいけない相手と場所をどう名指しするか、③再委託先への開示をどう認めるか、④法令や正当な権利行使のために開示できる場面をどう確保するか、です。

「目的」を書き込んで、目的外利用の禁止を働かせる

目的外利用の禁止は、「目的」が具体的に書かれていてはじめて働きます。目的が「本取引のため」としか書かれていなければ、相手が受け取った情報を自社の別の企画に使っても、それが目的の外かどうかで争いになります。事務所の書類では、目的を具体的に特定したうえで、とくに警戒すべき利用の仕方を名指しで禁じる書き方を使っています。

場面ごとに名指しした目的外利用

場面名指しで禁じた利用
撮影現場の見学者見学で知った情報を、類似する作品の企画などに利用すること(公知となるまで)
サロンの研修参加者調査・偵察・競業に利用する目的での参加、研修で知った顧客への勧誘
法人向けの対話型の支援サービスセッションで知った情報を、人事評価・査定などの内部の評価に使うこと
AIの需要予測ツールの開発開示の目的を特定したうえで、ソースコードやアルゴリズムを取得する行為、リバースエンジニアリング

法人向けの対話型の支援サービスの誓約書では、サービスの定義そのものに「人事評価・査定を含まない」と書き、守秘の対象となる情報を内部の評価に使わない設計にしました。レビューでは、「内部評価」「査定」という言葉を定義しておくよう指摘しています。禁じる利用を名指しするときは、その言葉の意味が読み手によって変わらないかも確かめます。目的の書き方は、NDAを本体の契約から独立させるときにも問題になります(NDAをどの形で結ぶか)。

業務従事者と同居家族:守らせる書き方と、認める書き方

映像制作会社が外注先と結ぶ基本契約のレビューでは、再委託は規制されていたものの、外注先が雇ったアシスタントに作業させること、自宅のリビングで家族が画面を見ること、カフェで隣の人に見られること、作業画面がライブ配信に映り込むことは、いずれも明文の違反を構成しにくい、と指摘しました。改定版では「業務従事者」の条を新設しています。

事務所の改訂例 業務従事者の条を新設する

受け取る側が使う人

改訂前定めなし(再委託の規制のみ)。(依頼者の持込みの契約書)
改訂後乙が本件業務に従事させる者(以下「業務従事者」という。)に、本契約に定める乙の義務と同等の義務を遵守させ、業務従事者の行為は乙の行為とみなして乙が責任を負う。

再委託に当たらないアシスタントや手伝いの人の行為も、受託者の責任として捉えるため。

同居者

改訂前定めなし。
改訂後乙は、秘密情報を同居の家族その他の同居者に閲覧させ、又は開示してはならない。

自宅で作業する個人の受託者では、最も起きやすい経路のため。

「業務従事者の行為は乙の行為とみなす」という一文があると、漏えいがアシスタントの不注意によるものでも、出す側は受託者本人に責任を問えます。出す側はアシスタントと契約関係にないので、この一文がないと、誰の責任を問えばよいのかがはっきりしません。受託者の側も、誰に作業を手伝わせるかを自分で管理する動機を持つことになります。

一方で、業務の実態によっては、家族への開示を認めるほうが現実的な場合もあります。遠隔の安全管理業務を個人事業主に委託するNDAでは、事務所は反対の書き方を選びました。

条文例

第○条(開示の範囲)第○項

1乙は、本目的のために必要な最小限度の範囲で、自己の家族その他秘密情報を知る必要のある者に秘密情報を開示することができる。この場合、乙は、当該開示を受ける者に本契約と同等以上の義務を負わせ、その者の違反について責任を負う。

家族が業務を補助する個人事業主を想定した書き方です。家族を一律に禁止すると、実態と条文が食い違い、条文が守られない前提で運用されることになります。

同じ「家族」でも、禁止するか、条件付きで認めるかは、業務の実態で決まります。ヒヤリングでは、相手がどこで作業するのか、誰かに手伝ってもらうことがあるのかを確かめ、その答えに合わせて書き分けます。

ヒヤリングで確かめること開示の範囲を決めるための問い

  1. 相手は、どこで作業しますか(自社の事務所、相手の自宅、外出先、現場)自宅なら同居者、外出先なら公共の場所での閲覧・作業の扱いを決めます。
  2. 相手は、アシスタントや家族の手を借りることがありますかあるなら業務従事者の条で同等の義務を負わせるか、必要な最小限度での開示を認めるかを選びます。
  3. 相手は、別の会社に勤めていたり、同業の取引先を持っていたりしますか勤務先・兼業先への開示の禁止、持込みの禁止、兼業の規程に抵触しないことの表明保証を置きます。
  4. 相手は、さらに外注先に仕事を出しますか再委託の条と第三者開示の条をつなげます。

開示してはいけない相手と場所を名指しする

副業の技術者や、複数の会社と取引している個人が相手の場合は、開示してはいけない相手を具体的に名指ししておくと、現場で迷いません。SNS運用代行のNDAと、建設分野の技術顧問の候補者とのNDAでは、勤務先、所属先、取引先、兼業先、関与先、家族、知人、再委託先、協力者を名指ししました。

あわせて、反対方向の持込みも禁じています。受け取る側が勤務先や過去の勤務先の秘密情報を出す側に持ち込むと、今度は出す側が第三者の秘密を侵害したと言われかねないからです。

条文例

第○条(持込みの禁止と表明保証)

1乙は、乙の勤務先、過去の勤務先その他の第三者の秘密情報を、当該第三者の承諾なく甲に開示し、又は本件業務に使用してはならない。

2乙は、本契約の締結及び履行が、乙の勤務先の就業規則、兼業に関する規程、競業避止義務その他乙が第三者に対して負う義務に抵触しないことを表明し、保証する。

副業の技術者を想定した書き方です。表明保証(一定の事実が真実であることを相手に約束すること)が事実と違った場合の責任は、損害賠償の条とつなげておきます。

場所の名指しも有効です。ナレーションの収録を外注する映像制作会社のNDAでは、修正版で、カフェ、コワーキングスペース、交通機関の中での記録・閲覧・作業について、盗み見・盗み聞き・紛失に配慮する義務を新設しました。コーチング講座のNDAでは、公共の場所での閲覧と、私物の機器や共有アカウントへの保存を禁じています。撮影やスクリーンショットなど、受け取る側が自分で情報を作り出す経路は、撮影・SNS・アカウントのページで扱います。

条文例

第○条(作業の場所と機器)

1乙は、飲食店、共用の作業スペース、交通機関の車内その他の公共の場所において秘密情報を記録し、閲覧し、又は秘密情報を用いた作業を行うときは、第三者による盗み見、盗み聞き及び紛失を防止するために必要な措置を講じる。

2乙は、甲が認めた場合を除き、秘密情報を私物の機器又は他人と共有するアカウントに保存してはならない。

第1項はナレーションの収録の外注先向けNDAの修正版、第2項はコーチング講座のNDAで使った書き方をまとめたものです。全面的に禁じるか、配慮の義務にとどめるかは、相手の働き方に合わせて選びます。

公共の場所での作業を一律に禁じると、外出先で作業することが多い個人の受託者には守れない義務になります。守れない義務を書くと、条文が守られない前提で運用され、肝心の場面で「みんな守っていなかった」と言われかねません。「配慮する義務」の形は、外出先での作業そのものは認めつつ、作業のしかたに条件を付ける書き方です。私物の機器への保存も同じで、全面禁止にするなら、出す側が業務用の機器やアカウントを用意することとセットで考えます。

再委託と第三者への開示をつなげる

業務委託契約で再委託を認めていても、NDAで第三者への開示を事前承諾制にしていれば、再委託先に情報を渡すたびに承諾が要ることになり、再委託の条は空文になります。受け取る側のレビューでは、この食い違いを指摘した例があります。

再委託先への情報の流れと、条文のつなぎ方

出す側(甲)秘密情報を開示する
受け取る側(乙)業務委託契約の再委託の条に従って再委託
再委託先乙と同等の義務を負う書面を乙と交わす

SNS運用代行のNDAでは、「業務委託契約があるときはその再委託の条による。ないときは甲の事前の承諾を要する」と書き、二つの契約の条をつなげました。

出す側としては、再委託を認める場合でも、再委託先に乙と同等の義務を負わせること、再委託先の違反は乙の違反として乙が責任を負うこと、甲が求めたときは再委託先の名称を通知することを書いておきます。SNS運用代行の案件では、依頼者から「制作チームや再委託先に情報を共有してよいか」という質問があり、事前の包括的な承認と、連絡ツールでの記録で運用できると回答しています。

条文例

第○条(再委託先への開示)

1乙は、甲乙間の業務委託契約が再委託を認める場合はその定めに従い、業務委託契約がない場合又は業務委託契約に定めがない場合は甲の事前の承諾を得て、本目的の遂行に必要な限度で、秘密情報を再委託先に開示することができる。

2乙は、前項の再委託先に対し、本契約に定める乙の義務と同等の義務を書面又は電磁的記録により負わせ、再委託先の違反については、乙の違反として甲に対し責任を負う。

3乙は、甲が求めたときは、再委託先の名称及び開示した秘密情報の範囲を甲に通知する。

包括的な承認とは、再委託先やその範囲をあらかじめまとめて承認しておく方法です。案件ごとに承諾の書面を交わすのは現実的でない一方、誰に情報が渡ったのかが分からなくなるのも困ります。そこで、承認の範囲を決めたうえで、実際に共有した事実を日常の連絡ツールに残しておけば、手間を増やさずに情報の流れを後から追えるようにできます。

開示できる場面を確保する:専門家・法令・紛争・公益通報

受け取る側が正当に情報を開示できる場面を書いておかないと、契約の文言どおりなら違反になる場面が残ります。事務所の書類で確保している場面は、次の四つです。

開示できる場面と、条文での手当て

場面条文での手当て根拠・理由
弁護士・税理士・行政書士などへの相談事前の承諾なく開示できるこれらの専門家は法令上の守秘義務を負う(弁護士法23条、税理士法38条、行政書士法12条)
法令や命令に基づく開示法令で禁じられる場合を除き事前に、困難なときは事後速やかに通知し、必要最小限の範囲で開示令状による捜索差押えのように事前の通知ができない場合、通知が禁じられる場合がある
自己の権利の行使・防御専門家・裁判所・行政機関に必要な範囲で開示できる。必要最小限とし、閲覧制限の申立てなどに努め、事後に通知法令に基づく開示の条は、当事者が自分の権利を守るために証拠を出す場面を含まない。訴訟記録の閲覧等の制限は民事訴訟法92条
公益通報・フリーランス法の申出公益通報者保護法に基づく公益通報、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律6条1項・17条1項の申出と、そのための証拠の保存・使用には適用しない申出の手段を契約で封じない

二つ目の「事前に通知」は、通知が常にできるとは限らない点に注意が要ります。受け取る側のレビューでは、「事前に通知しなければならない」とだけ書いた条項について、事前の通知ができない場合や通知が禁じられる場合に違反になってしまうと指摘し、「法令で禁じられる場合を除き事前に、困難なときは事後速やかに」という修正を提案しました。出す側が作るNDAでも、同じ書き方にしておけば、守れない義務を課すことになりません。

三つ目の紛争での証拠の提出は、見落とされやすい場面です。SNS運用代行のNDAでは、依頼者から「専門家への相談や裁判での証拠の提出もNDA違反になるのか」という質問を受け、自己の権利の行使又は防御に必要な範囲での開示の条を加えることを提案しました。専門家への相談の例外も、第三者への開示を承諾制にする条を含めて、NDAのどの条との関係でも働くと明記しています。

条文例

第○条(開示できる場合)

1乙は、弁護士、税理士、行政書士その他法令上守秘義務を負う専門家に対し、相談に必要な限度で秘密情報を開示することができる。この場合、甲の事前の承諾を要しない。

2乙は、法令又は裁判所若しくは行政機関の命令に基づき秘密情報の開示を求められたときは、法令で禁じられる場合を除き事前に、事前の通知が困難なときは開示の後速やかに甲に通知したうえで、必要最小限の範囲で開示することができる。

3甲及び乙は、自己の権利の行使又は防御のために必要な範囲で、前二項に定める専門家、裁判所又は行政機関に秘密情報を開示することができる。この場合、開示は必要最小限にとどめ、訴訟記録の閲覧等の制限の申立てその他の秘密を保護するための措置に努め、開示の後速やかに相手方に通知する。

4本契約の規定は、公益通報者保護法に基づく公益通報、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第6条第1項又は第17条第1項に基づく申出、及びこれらに必要な証拠の保存又は使用を妨げない。

第4項は日本語教師講座の講師向けNDAで使った書き方です。他の契約との関係の条(「NDAの形」のページ)で、これらの例外は他の契約にかかわらず適用すると定めています。

第4項のフリーランス法の申出とは、特定受託事業者(従業員を使用しない個人などの受託者)が、同法の第2章(取引の適正化)の規定に違反する事実を公正取引委員会又は中小企業庁長官に(同法6条1項)、第3章(就業環境の整備)の規定に違反する事実を厚生労働大臣に(同法17条1項)申し出て、適当な措置を求めることができる、という仕組みです。申出には、契約書や発注のやり取りなど、取引の中で受け取った情報を証拠として示すことが伴います。秘密保持の条がこれを封じているように読めると、受け取る側は申出をためらいますし、出す側にとっても、法律が認める行動を契約で妨げる書き方は、契約全体の評価を下げる材料になります。そのため、申出と公益通報のための証拠の保存・使用まで含めて、適用しないと明記しています。

これらの例外は、受け取る側のためだけのものではありません。出す側にとっても、契約全体が過度に広い制限として限定解釈されることを防ぎ、受け取る側が安心して署名できる条件になります。生成AIやクラウドへの入力という新しい「開示」の経路は、生成AI・外部サービスへの入力で扱います。

受け取る側から見ると

開示の範囲をめぐる、出す側と受け取る側の視点

出す側(開示者)の設計

  • 業務従事者に同等の義務を負わせ、その行為を受け取る側の行為とみなす。
  • 同居家族は、業務の実態に合わせて禁止するか、条件付きで認めるかを書き分ける。
  • 再委託を認めるなら、第三者開示の条と再委託の条をつなげる。

受け取る側(受領者)の点検

  • 再委託が自由なのに第三者への開示が事前承諾制になっていないか(再委託の条が空文になる)。
  • 専門家への相談、法令による開示、紛争での証拠の提出、公益通報の例外があるか。
  • 法令による開示の通知が「事前」に限られていないか。

スタッフや見学者に差し入れてもらう誓約書でも、業務従事者・家族・場所の書き方は同じ考え方で作ります。

相手が多数のスタッフや見学者で、一人ずつ契約書を交わさない場面では、ここで見た書き方を誓約書の形に落とし込みます(業務上の守秘義務誓約書)。誓約書では、第三者に「法人の役員・従業員・委託先、個人の家族・友人・知人」を含むと明記するなど、相手が自分で読んで分かる言葉を選ぶことがとくに大切です。

起きがちなこと

よくあるご質問

外注先が雇ったアシスタントにも守らせるには、どう書けばよいですか?

受け取る側が業務に従事させる者(業務従事者)に、受け取る側と同等の義務を守らせ、業務従事者の行為は受け取る側の行為とみなして受け取る側が責任を負う、と書きます。再委託の規制だけでは、再委託に当たらない手伝いの人を捉えにくいからです。

受託者の家族に見られたら、違反になりますか?

契約しだいです。同居者への閲覧・開示を禁じる書き方もあれば、家族が業務を補助する個人事業主のように、必要な最小限度で家族への開示を認め、同等の義務を負わせる書き方もあります。業務の実態に合わせて書き分けます。

税理士に契約書を見せるのにも、相手の承諾が要りますか?

事務所の書類では、弁護士・税理士・行政書士など法令上守秘義務を負う専門家への相談のための開示は、事前の承諾を要しないと定めています。例外を一つの条にだけ置くと、別の条の承諾の要件にかかると読まれるおそれがあるので、及ぶ範囲も確かめます。

裁判で証拠として出すのも、NDA違反になりますか?

法令や命令に基づく開示の条だけでは、当事者が自分の権利を守るために証拠を出す場面を含まないと読まれるおそれがあります。自己の権利の行使又は防御に必要な範囲で、専門家・裁判所・行政機関に開示できる条を置き、必要最小限・閲覧制限の申立てなどの努力・事後の通知を組み合わせます。

再委託を認める場合、NDAには何を書けばよいですか?

業務委託契約の再委託の条とNDAの第三者開示の条をつなげ、再委託先に同等の義務を負わせること、再委託先の違反は受け取る側の違反として責任を負うこと、求めがあれば再委託先を通知することを書きます。

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