存続期間の設計:何年か、いつから数えるか、何を無期限にするか

短すぎればまだ価値のある情報が自由に使われ、長すぎれば相手が署名をためらいます。

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外注先に5年しか課していないのに、自社が取引先に7年の秘密保持を負っていれば、6年目の漏えいは自社だけが責任を負います。

このページの要点

  • 事務所の約60通では3年と5年が中心。1年・2年・10年・無期限もある。年数は渡す情報の価値が続く期間で決める。
  • 一般の秘密情報は年数で区切り、営業秘密・個人情報・アカウント情報など価値が続く類型だけを無期限にする。
  • 自社が取引先に負う期間以上にし、通知で延長できる条を置く。
  • 自動更新と終わりのない存続条項の組合せを避け、関係を終わらせる手続と存続条項に残す条を確かめる。

結論:一般の情報は年数で区切り、守り続けたい情報だけを期限なしにする「二段構え」

秘密保持の義務がいつまで続くかは、NDAで最も悩ましい論点の一つです。短すぎれば、まだ価値のある情報が期限の後に自由に使われます。長すぎれば、受け取る側が署名をためらい、とくに個人が相手の場合は、終わりのない義務が過度な拘束として争われる材料になります。

事務所の書類で多く使っているのは、一般の秘密情報は契約の終了後一定の年数(5年が多い)とし、不正競争防止法上の営業秘密(同法2条6項。秘密として管理され、事業活動に有用で、公然と知られていない技術上又は営業上の情報)は営業秘密でなくなるまで、と分ける二段構えです。さらに、業種ごとに、個人情報やアカウントの情報、取引先との単価など、期限を切ると困る情報を無期限の側に加えます。年数を決めるときは、何年にするかと並んで、「いつから数えるか」と「自社が取引先に負っている期間と合っているか」を確かめます。

年数の分布:事務所の約60通の書類から

事務所が作成・レビューした約60通のNDAの存続期間を並べると、次のように分かれます。業種も相手も違う書類の集まりなので、「何年が正しい」という答えではなく、「どんな場面で何年が選ばれているか」の参考として見てください。

存続期間の年数の分布

年数事務所の書類での例選ばれる場面
1年約40通のうち2通、企業出張型のリラクゼーションのセラピスト用、記帳代行の顧客向け、受け取る側のレビューの講師業のNDA相手が個人で、情報の鮮度が短い取引
2年約40通のうち2通短期の協業・検討
3年最も多い群の一つ(約40通のうち10通以上)一般的な業務委託・協業
5年最も多い群の一つ(約40通のうち10通以上)、受け取る側のレビューでの提案、建設分野の契約技術・ノウハウ・顧客情報を含む取引
10年約40通のうち4通、2024年のオンラインコーチングの契約(有効期間10年)長く価値が続く情報
無期限日本語教師講座の講師向けNDA、建設分野の一級建築士とのNDA、設備工事・教材提供のNDA、「受領者の管理下にある限り」とする型情報の価値が時間で薄れない場面

相手方から示された書式のレビューでは、受け取る側に有利な短い期間(終了後1年など)には、あえて手を入れないこともあります。

無期限の中には、「受領者の管理下にある限り」とする型もあります。受け取る側が秘密情報を手元に持っている間は義務が続き、契約に従って返還・削除すれば、その後は手元にない情報の管理の義務がなくなる、という考え方です。期限を年数で決めない代わりに、返還・削除の条と組み合わせて義務の終わりを作る書き方で、返還・削除の期限をきちんと決めておくことが前提になります(返還・廃棄・証明)。

年数の分布を見ると、3年と5年が中心で、短いものも無期限のものもある、という幅のある姿になります。出す側として年数を決めるときは、渡す情報が何年後まで価値を持つかを一つずつ考えます。新商品の発売前の情報なら発売まで、顧客の名簿なら顧客との取引が続く限り、技術のノウハウなら長く、と情報によって答えが違うので、一つの年数で全部をまかなうより、二段構えで分けた方が説明しやすくなります。

情報の種類ごとの期間の考え方(事務所の書類から)

情報の種類事務所の書類での扱い考え方
未公開のコンテンツ・作品の情報終了後5年(SNS運用代行のNDA)公開されれば公知として除外されるので、公開されなかった情報を一定期間守る
運用の実績・ツールの情報終了後5年(同上)価値は残るが、時間とともに薄れる
顧客・取引先の情報、営業・価格の情報期限なし(同上の改訂版)取引が続く限り価値があり、期限の後に使われると困る
個人情報・アカウントの情報期限なし(同上)本人やアカウントの持ち主にとって、時間で価値が変わらない
元請との単価・見積りの根拠・原価期限なし(遠隔の安全管理業務のNDA)取引の構造そのものが競争上の価値を持つ
児童・保護者・教職員の情報、未公表の研究データ性質に応じて必要な期間(共同研究のレビューでの提案)一律の年数で保護の外に出してはいけない

起算点:いつから数えるか

同じ「5年」でも、いつから数えるかで、実際に守る期間は大きく変わります。事務所の書類の起算点を並べると、次のとおりです。

存続期間の起算点の書き方

起算点書き方の例注意
契約の終了日「本契約の終了後5年間」最も多い。契約が長く続くほど、早く渡した情報の保護も長くなる
業務委託契約の終了日「業務委託契約の終了後5年間」NDAと本体の契約の終わり方がずれると、起算点があいまいになる
各開示日「各秘密情報の開示の日から5年間」情報ごとに期限が違い、管理が複雑になる
最後の開示日「最後の開示の日から5年間」取引が細く長く続くと、終わりが見えにくい
遅い方「本契約の終了日と最後の開示日のいずれか遅い日から3年間」移動支援事業者の業務提携の協議用NDA
長い方「各開示日から5年と、本契約の終了から2年のいずれか長い期間」フリーランスの歯科衛生士とのNDA

起算点を「契約の終了日」にする場合は、契約そのものがいつ終わるのかがはっきりしている必要があります。自動更新が続く契約や、発注が途絶えたまま放置された契約では、終了日が来ないので、存続期間がいつまでも始まりません。この問題は、後で見る「終わらない契約を終わらせる」の節で扱います。

「各開示日から」とする書き方は、情報ごとに期限が違うので、出す側も受け取る側も、どの情報がいつまで秘密かを管理する手間がかかります。長く続く取引で毎月のように情報を渡すなら、契約の終了日か最後の開示日から数える方が、管理が楽になります。反対に、取引そのものは長く続くけれど、渡す情報は最初の一回だけ、という取引なら、開示日から数える方が実態に合います。起算点も、年数と同じく、情報の渡し方から決めます。

二段構えと、無期限の範囲の広げ方

SNS運用代行会社の外注先向けNDAでは、一般の秘密情報は終了後5年、営業秘密は営業秘密でなくなるまでとしたうえで、個人情報とアカウントの情報も無期限にしました。依頼者の原案は「公知となるまで」とだけ書かれていて、公知にならない情報は永久に義務が続く作りでした。改訂版では、さらに依頼者の希望を受けて、無期限の範囲を広げています。

事務所の改訂例 存続期間の二段構え

存続期間

改訂前秘密情報が公知となるまで。(依頼者の原案)
改訂後一般の秘密情報は本契約の終了後5年間。営業秘密、個人情報及びSNSアカウント情報は、期間の定めなく存続する。

「公知となるまで」だけだと、公知にならない情報は永久になり、期間の説明ができないため。

無期限の範囲

改訂前営業秘密、個人情報、SNSアカウント情報。(ご希望を伺う前の版)
改訂後営業秘密の要件を満たすかを問わず、クライアント情報、営業・価格情報、業務フロー・ノウハウ、個人情報、SNSアカウント情報を無期限とし、これらの違反についての差止め・損害賠償の権利も期限なく行使できるとした。

依頼者の希望。営業秘密に当たるかどうかの争いを避け、類型で無期限の範囲を決めるため。

個人情報とアカウントの情報を無期限の側に入れたのは、これらの情報の価値が時間で薄れないからです。顧客や出演者の連絡先、口座の情報は、5年たっても本人にとって守られるべき情報であることに変わりはなく、アカウントのIDやパスワードは、変更されない限り、何年たっても不正なログインに使えます。期限で区切る理由が見当たらない情報は、最初から無期限の側に置いておきます。

無期限の範囲を「営業秘密」で決めると、ある情報が営業秘密の要件を満たすかどうかで争いになります。秘密として管理されていたか、公然と知られていないかは、漏えいの後で争われると、出す側が示すのは簡単ではありません。この案件では、営業秘密かどうかを問わず、類型で無期限の範囲を決めたので、その争いを避けられます。依頼者からの質問を受けて、5年で切れる情報の具体例(未公開コンテンツ、運用実績、ツール情報など)を示し、派生情報は元の情報と同じ期間とする補足も推奨しました(業種の言葉で列挙する)。

条文例

第○条(存続期間)

1本契約に基づく秘密保持の義務は、本契約の終了後5年間存続する。

2前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる情報に関する義務は、期間の定めなく存続する。(1)不正競争防止法第2条第6項に定める営業秘密に該当する情報(営業秘密に該当しなくなるまで) (2)個人情報 (3)アカウント情報 (4)その他甲が別紙に定める類型の情報

3派生情報に関する義務は、元の秘密情報に関する義務と同じ期間存続する。

4本条の規定は、本契約の解除、取消し又は無効の場合にも適用する。

第2項第4号のように、無期限の類型を別紙で定めておくと、業種に合わせた追加がしやすくなります。

存続期間の条を書いたら、存続条項(契約の終了後も効力が残る条を列挙した条)もあわせて確かめます。受け取る側のレビューでは、定義の条、返還の条、管轄の条が存続条項に入っていない書式を指摘したことがあります。秘密保持の義務だけが残っても、何が秘密情報かを定める定義の条が終了とともに消えれば、義務の中身が読めなくなります。存続条項に残しておきたい条は、次のとおりです。

  • 秘密情報の定義と除外事由の条(義務の中身を読むために必要)
  • 秘密保持・目的外利用の禁止の条と、存続期間の条
  • 返還・削除・証明の条(終了の後にこそ働く)
  • 損害賠償・違約金・差止めの条(終了後の違反に備える)
  • 準拠法・管轄の条(終了後の紛争の場所を決める)

契約の期間が終わった後も、法律による保護は残ります。営業秘密を、その保有者から示された者が、不正の利益を得る目的や保有者に損害を加える目的で使用・開示する行為は、不正競争防止法2条1項7号の不正競争に当たり得ます。ただ、これは営業秘密の要件を満たす情報に限られ、目的の立証も必要です。契約の存続期間は、法律の保護が及ばない情報や場面を補うものとして設計します(差止め・事故報告と営業秘密)。

業種と取引先に合わせる:期間のバックトゥバック

年数を決めるときに見落とされやすいのが、自社が取引先に負っている期間との関係です。映像制作会社が外注先と結ぶ基本契約のレビューでは、外注先には5年しか課していないのに、自社がクライアントや芸能事務所に7年の秘密保持を負っていれば、6年目の漏えいは自社だけが責任を負うことになる、と指摘しました。

条文例

第○条(存続期間)第○項

1甲が本件業務に関して第三者に対し負う秘密保持の義務の期間が前項の期間を超えるときは、甲は、乙に通知することにより、乙の義務の期間を当該期間まで延長することができる。

映像制作会社の基本契約の改定版(第7条8項)の考え方です。上の取引と下の取引で期間をそろえる設計を、バックトゥバック(背中合わせ)と呼ぶことがあります。

この書き方を使うには、出す側が、自分が取引先に何年の秘密保持を負っているかを把握していることが前提になります。取引先との契約の期間が案件ごとに違うなら、外注先に仕事を出すときに、その案件で延長が必要かどうかを確かめ、必要なら発注の書面やメッセージで延長を通知しておきます。通知をしないまま期間が過ぎてしまえば、延長の条があっても働きません。延長の条は、出す側の運用とセットで初めて意味を持ちます。

出す側の判断で期間を延ばせる書き方は、ほかにもあります。事務所の約40通の中には「甲が通知すれば合理的な期間延長でき、乙は異議なく従う」とする書類があり、オンライン相談サービスの提携のNDAでは「個人情報を含む場合などに甲の通知で延長できる」としています。日本語教師講座の運営者の業務提携に付随するNDAの初版では「5年を超える必要があると合理的に判断されるときは甲の指示に従う」と書いています。いずれも、延長の理由や範囲に「合理的」という限定をかけ、出す側の一方的な延長が際限なく続かないようにしています。

業種固有の無期限もあります。遠隔の安全管理業務のNDAでは元請との契約の単価・見積りの根拠・原価を、建設系の照査業務の契約では発注元とその先の会社の情報を、期限なしで守らせる形にしました。取引の構造そのものが競争上の価値を持つ業界では、年数で区切ると、期限の後に単価や発注元を使われてしまうからです。

照査業務の契約は、業務委託契約の中に秘密保持を作り込んだ形で、一般の秘密情報は終了後5年、営業秘密と発注元・その先の会社の情報は期限なし、という二段構えを、本体の契約の期間とは別に定めています。内包の形では、存続期間が本体の契約の期間に引きずられやすいので、別に数えることを明記するのが大切です(NDAをどの形で結ぶかでも触れています)。

共同研究の秘密保持では、「終了後5年又は公知となるまで(早い方)」という一律の期間では、児童・保護者・教職員の情報、研究倫理の上で保護が必要な情報、未公表の研究データが5年で保護の外に出てしまう、と指摘し、情報の性質に応じて必要な期間を書き分ける提案をしました(共同研究・試験受託)。

終わらない契約を終わらせる:自動更新と関係の終了

存続期間を「契約の終了後」から数える以上、契約がいつ終わるのかを決めておく必要があります。自動更新(期間の満了前に申出がなければ同じ条件で更新される定め)が回数の上限なく続き、存続条項に終わりがなければ、秘密保持は事実上永久になります。

SNS運用代行の案件では、依頼者から「NDAはいつ終わるのか」という質問があり、発注が相当の期間(1年を目安)ないときは、関係を終える旨の意思表示をすることができ、それが相手に届いた日にNDAも終了する、という条を新設しました。終了の日を記録に残せるようにするためです。終了の日が決まれば、存続期間の起算点も決まります。

受け取る側のレビューでは、この問題を正面から取り上げた例があります。そのNDAは、自動更新に回数の上限がなく、しかも秘密保持の義務は契約の終了後も期限なく存続する作りで、二つが重なって、秘密保持は事実上永久に続くことになっていました。受け取る側としては、署名を留保すべき重い条項として依頼者に伝えています。出す側の書類でも、同じ組合せを作らないように、更新の回数か、存続の期間のどちらかに終わりを設けておきます。

ヒヤリングで確かめること存続期間を決めるための問い

  1. 渡す情報のうち、5年後も価値があるものは何ですか価値が続く情報を無期限の類型に入れ、それ以外は年数で区切ります。
  2. 自社がクライアントや取引先に負っている秘密保持の期間は何年ですか外注先の期間がそれより短いと、差の期間の漏えいは自社だけの責任になります。
  3. 取引は、案件ごとですか、継続的ですか継続的なら、発注が途絶えたときの終わらせ方と、起算点の決め方を決めます。
  4. 更新の拒絶は、どの方法でできるようにしますか電子契約で結ぶなら、「書面又は電磁的記録」による通知にしておきます。

更新の拒絶の方法も、細かいけれど大切な点です。受け取る側のレビューでは、更新の拒絶を「書面」に限る定めが電子契約と合わないとして「書面又は電磁的記録」に改め、2年の契約に3か月前の予告は長いとして1か月前にする提案をしました。出す側が作る書類でも、契約を電子で結ぶなら、終わらせる手続も電子でできるようにしておくのが自然です(NDAをどの形で結ぶか)。

受け取る側から見ると

存続期間をめぐる、出す側と受け取る側の視点

出す側(開示者)の設計

  • 一般は年数、価値が続く類型だけを無期限にする二段構えにする。
  • 自社が取引先に負う期間以上になっているかを確かめ、延長の手段を持つ。
  • 契約の終わらせ方を決め、起算点が来ない状態を作らない。

受け取る側(受領者)の点検

  • 自動更新(回数の上限なし)と、終わりのない存続条項が組み合わさって、事実上永久になっていないかを見る。
  • 存続条項から、定義・返還・管轄の条が抜けていないかを見る(抜けていると、終了後に義務だけ残って中身が読めない)。
  • 自分に有利な短い期間が書かれていれば、あえて触れないという判断もある。

「公知となるまで、又は終了から5年のいずれか遅い(長い)方」という書き方は、公知にならない情報について永久に義務が続くことになり、出す側が意図した以上に重い義務と受け取られることがあります。年数と無期限の範囲は、類型で書き分ける方が説明しやすくなります。

起きがちなこと

よくあるご質問

秘密保持の期間は、何年にするのが普通ですか?

事務所が作成・レビューした約60通では、3年と5年が最も多い群で、1年・2年・10年・無期限のものもありました。一般の秘密情報は年数で区切り、営業秘密や個人情報など価値が続く情報だけを無期限にする二段構えが、説明しやすい設計です。

「無期限」の秘密保持は有効ですか?

情報の性質によっては合理的と評価され、事務所の書類にも無期限のものがあります。ただ、すべての情報を無期限にすると、とくに個人が相手の場合に過度な拘束として争われる材料になるので、無期限にする類型を限って書くのが安全です。

存続期間は、いつから数えるのですか?

契約で決めます。契約の終了日から数える書き方が多く、ほかに各開示日、最後の開示日、終了日と最後の開示日の遅い方、などがあります。自動更新が続いて終了日が来ない契約では、起算点が来ないので、関係を終わらせる手続も決めておきます。

取引先に負っている期間と合わないときは、どうすればよいですか?

外注先の期間を、自社が取引先に負う期間以上にするのが基本です。事務所の書類では、自社が第三者に負う期間が長いときは、通知によって外注先の期間をその期間まで延長できる、と定めた例があります。

自動更新のNDAで気をつけることはありますか?

自動更新に回数の上限がなく、存続条項にも終わりがないと、秘密保持は事実上永久になります。更新の拒絶の方法を電子でもできるようにし、発注が途絶えたときに関係を終わらせる手続を決めておくと、終了の日と起算点がはっきりします。

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