このページの要点
- 定義と管理の対象を「乙が業務の過程で撮影・取得・作成した情報」にまで広げる。
- 撮影・録音・録画・スクリーンショット・共有リンクの転送・アカウントの共有を、場面に合わせて名指しで禁じる。
- SNSの二段階認証を受託者の端末や電話番号で設定させない。終了時のログアウトなどへの協力を書く。
- 「甲の指示に基づき本件業務として撮影・投稿することを妨げない」と書き、通常の業務を禁止から外す。
結論:管理の対象を「受け取った情報」から「取得し、作成した情報」に広げ、漏れる行為を名指しする
秘密保持の条の多くは、「甲から開示された秘密情報を、善良な管理者の注意をもって管理する」という形で書かれています。この書き方の弱点は、管理の対象が「甲から開示された」情報に限られていることです。現場で実際に漏れるのは、受託者・スタッフ・見学者が手元のスマートフォンで写した写真や動画、画面のスクリーンショット、自分で作った編集のデータであることが少なくありません。これらは「甲から提供されたもの」ではないので、書き方によっては管理の義務の外に落ちます。
事務所の書類では、二つの手当てを組み合わせています。一つは、秘密情報の定義と管理の義務の対象を「乙が業務の過程で取得し、又は作成した情報」にまで広げること。もう一つは、撮影、録音、録画、スクリーンショット、SNSへの投稿、共有リンクの転送、アカウントの共有といった、現場で漏えいにつながる行為を、条文の中で名指しして禁じることです。「秘密を守る」という抽象的な義務だけでは、本人に悪意がないまま漏れていく経路を止められません。
現場で情報が外に出ていく典型的な経路
どの段階で止めるかを決めると、禁止する行為の列挙に漏れがなくなります。最初の「撮る」で止められない業務なら、次の「保存する」の段階で条件を付けます。
私的な撮影:悪意のない「記念の投稿」を止める
芸能人を起用する映像制作会社が外注先と結ぶ基本契約のレビューでは、外注先が楽屋やリハーサル、記念撮影、機材のセッティングの様子を私物のスマートフォンで撮影した場合、それは「甲から提供された情報」ではないので、原案の管理の義務が及ばない、と指摘しました。こうした写真は、悪意なく「良い仕事ができた記念」として投稿されることが多く、投稿した本人には違反の意識すらありません。けれども、公開前の作品の衣装や出演者の組合せが一枚の写真から分かってしまえば、損害は甚大です。
事務所の改訂例 私的な撮影と、撮影したデータの扱い
秘密情報の定義
受託者が自分で作り出した情報を、管理の義務の対象に入れるため。
撮影・録音・録画
記念の撮影など、業務の外の撮影を明確に禁じるため。
業務で撮影したデータ
業務で撮った写真を手元に残し、後で投稿することを防ぐため。
出演者への接触
現場で知り合った出演者との私的な連絡から情報が漏れることを防ぐため。
改定版では、これらを「撮影等の禁止」として独立の条(第8条の2)にまとめました。秘密保持の条の中に一文を足すのではなく独立の条にしておくと、外注先が条文を読んだときに、撮影の禁止が秘密保持とは別の、具体的な行為の禁止として目に入ります。撮影の禁止は、違反があったときに外形から判断しやすいという利点もあります。「秘密情報を漏らしたか」は争いになりやすい一方、「業務の外で撮影したか」は写真そのものが証拠になるからです。
場面ごとに名指しする行為:見学者・研修生・相談員・講師・サロンのスタッフ
漏えいにつながる行為は、場面によって違います。事務所の書類から、場面ごとに名指しして禁じた行為を並べると次のとおりです。自社の業務に近い場面の列挙を土台に、実際に自社で起きたことのある行為を足していくと、条文が現場の言葉になります。
場面ごとに名指しした行為の例
| 場面 | 名指しした行為 | 書き方の工夫 |
|---|---|---|
| 撮影現場の見学者 | 撮影機器による記録、資料の持ち出し、第三者への開示 | 撮影機器による記録の禁止を独立の号にし、第三者に「法人の役員・従業員・委託先、個人の家族・友人・知人」を含むと明記 |
| サロンの研修参加者 | 研修資料の複製・撮影・録音・持ち出し | 研修だけの参加者向けに、短い別の誓約書にまとめた |
| オンライン相談の相談員 | 相談の様子の録画・録音、画面の撮影やスクリーンショット、利用者のSNSや連絡先を私的に集めること | 例外は、利用者がはっきり同意し、かつ事業者も承諾した場合に限る、と要件を二重にした |
| 外部講師 | 甲が提供する画面・講義の録画・録音・撮影・スクリーンショットでの保存 | 講師が自分の講義を記録する場合と区別して、甲の提供する画面に限定 |
| コーチング講座の相手方 | 顧客の情報の複製 | 原則として禁止し、個別の開示の書面で認めた範囲だけ可 |
| サロンのスタッフ | スクリーンショット、クラウドへの保存、USBメモリでの移動、ダウンロード、顧客の写真を個人のSNS・メッセージアプリに載せること | 施術の前後の写真、施術風景、口コミの画面まで、写真の種類を挙げた |
見学者の誓約書で第三者の範囲に「個人の家族・友人・知人」まで明記したのは、見学者にとって最も身近な話し相手がそうした人たちだからです。見学者は契約の当事者としての意識が薄く、「家族に話すくらいなら」と考えがちです。第三者の範囲を具体的に書いておけば、家族や友人への話も禁止の対象であることが、本人にもはっきり伝わります。
サロンのスタッフ向けの誓約書の解説では、自店で実際に起きた行為(LINEでの勧誘、インスタグラムへの投稿、スクリーンショットでの保存、クラウドへの転送など)を書き足すと、注意を促す効果が高い、と案内しています。署名の前の説明では、顔が写っていなくても、施術の内容や髪型、店の内装からお客様が特定され得ることを伝えるよう案内しています。スタッフが「顔を隠したから大丈夫」と考えて投稿する場面を、先回りして止めるためです。名指しの列挙は、禁止の範囲を決めるだけでなく、署名する人に「こういうことをしてはいけない」と具体的に伝える役割も持ちます。誓約書を渡すときの説明の手順は、業務上の守秘義務誓約書で扱います。
オンライン相談の相談員の登録誓約書で、録画などの例外の要件を「利用者の明示の同意」と「事業者の承諾」の二つにしたのは、相談の記録が、利用者にとっても事業者にとっても重い情報だからです。利用者が録画に同意していても、事業者がその記録の管理に責任を持てなければ、記録は事業者の管理の外に残ります。反対に、事業者が承諾しても、利用者の同意がなければ、利用者の信頼を損ないます。どちらか一方だけでは足りない、という設計です。外部講師向けのNDAで、録画などの禁止の対象を「甲が提供する画面・講義」に限ったのは、講師が自分の講義を自分の教材として記録する場面と区別するためで、禁止の範囲を正確に切る工夫の一つです。
見学者の場合、撮影の禁止を守ってもらう実際の手段として、見学の間はスマートフォンを預かる運用をとることがあります。そのときの根拠になるのが、誓約書の「撮影機器による記録の禁止」の号です。預かる運用そのものは任意の協力をお願いする形になりますが、誓約書に撮影の禁止がはっきり書かれていれば、協力をお願いする理由を説明しやすくなります。
撮影・録音の禁止は、出す側が相手の利用者に求めることもあります。法人向けの対話型の支援サービスの誓約書では、サービスを利用する法人の側に、セッションの録音・録画やAIによる文字起こしを禁じました。社内での共有は、事前の承諾を得たうえで、内容を抽象化し、個人を特定しない形で、必要最小限の範囲に限る、とし、保存の期間と削除の方法は協議で決めることにしています。セッションで話す個人にとっては、自分の発言が録音されて社内に回ることが、最も避けたい漏えいです。録音の禁止と共有の条件を誓約書に書いておくことで、安心して話せる場が保たれます。
ヒヤリングで確かめること撮影・録音のルールを決めるための問い
- 撮影や録音は、相手の業務に含まれますか含まれるなら、禁止は「業務に必要な範囲を超えて」に限り、業務として行う撮影を外します。
- 業務で撮ったデータは、どこに保存させますか出す側が用意した保存先に限り、私物の端末や個人のクラウドへの保存を禁じます。
- 相手が実績として作品を紹介することを認めますか認めるなら、公開の時期・方法・範囲を例外として書きます。
- 現場で、相手が出演者やお客様と直接知り合う機会はありますかあるなら、承諾のない直接の連絡を禁じる条を検討します。
共有リンク・ID・パスワード:「複製」でも「保存」でもない漏えい
映像制作会社の基本契約のレビューでは、もう一つの経路として、共有リンクの転送を指摘しました。クラウドの共有フォルダのURLを他人に転送する行為は、データを「複製」したわけでも、手元に「保存」したわけでもありません。複製と保存だけを禁じる条文では、この行為を捉えにくいのです。
第○条(アカウント・共有リンクの管理)
1乙は、甲から付与されたID、パスワード、共有のためのURLその他の認証又はアクセスのための情報(以下「アクセス情報」という。)を、自ら管理し、第三者に使用させ、又は転送してはならない。
2乙は、アクセス情報の漏えい又は不正な使用のおそれを知ったときは、直ちに甲に通知し、甲の指示に従う。
3乙は、本契約が終了したとき、又は甲が求めたときは、アクセス情報を甲に返上し、以後これを使用してはならない。
映像制作会社の基本契約の改定版の考え方を、独立の条の形にまとめたものです。終了時の「返上」は、アクセス権限そのものを手放すことを意味し、返還・削除の条とあわせて読むようにします。
共有リンクの問題は、出す側の運用でも防げます。リンクを知っている人なら誰でも見られる設定ではなく、相手のアカウントを指定して共有する設定にしておけば、転送されても見られません。契約で禁止を書くことと、出す側が共有の設定を工夫することは、両方そろえて意味を持ちます。終了時にアクセス権限を外す手順は、返還・廃棄・証明のページで扱います。
SNSアカウントと二段階認証:最も事故が起きやすい箇所
SNS運用代行会社の外注先向けNDAでは、SNSアカウントの扱いを独立の条(第11条)にしました。アカウントの権限を業務の目的以外に使わないこと、他人と共有しないこと、二段階認証を受託者の端末や電話番号で設定しないこと(甲の承諾がある場合を除く)、終了時のログアウトなどに協力することを定めています。
ヒヤリングで確かめることSNSアカウントの管理を決めるための問い
- クライアントのアカウントには、誰の端末でログインしていますか受託者の私物の端末でログインしている場合、終了時のログアウトの手順を決めておかないと、関係が終わった後もアクセスできる状態が残ります。
- 二段階認証の確認コードは、誰の電話番号やアプリに届きますか受託者の端末で二段階認証を登録していると、受託者が離脱した瞬間に、クライアント側がログインできなくなります。ヒヤリングの補足で、最も事故が起きやすい箇所としてお伝えした点です。
- パスワードは、どこに保管して、誰に共有していますかチャットにパスワードを書いて共有する運用は、チャットの履歴そのものが漏えいの経路になります。
- 広告のアカウントや支払の情報にも触れますか触れる場合、秘密情報の類型に広告アカウントを入れ、権限の範囲を決めます。
第○条(SNSアカウントの取扱い)
1乙は、甲又はクライアントから付与されたSNSアカウントの権限を、本件業務の目的以外に使用してはならず、第三者と共有してはならない。
2乙は、甲の承諾がある場合を除き、SNSアカウントの二段階認証を、乙の端末又は乙の電話番号若しくはメールアドレスで設定してはならない。
3乙は、本件業務が終了したときは、甲の指示に従い、SNSアカウントからのログアウト、乙の端末に保存された認証情報の削除その他権限の返上に必要な措置に協力する。
SNS運用代行の外注先向けNDA(第11条)の考え方を条文の形にまとめたものです。第3項の「協力する」は、ログアウトや認証の設定の変更が、出す側の操作と受託者の操作の両方を要することが多いためです。
二段階認証の設定先は、契約の条文よりも、関係が始まる日の運用で決まります。出す側としては、契約で「受託者の端末・電話番号で設定しない」と定めるとともに、アカウントの開設や引継ぎのときに、認証の設定先を出す側の管理する端末にしておくことが大切です。秘密情報の類型としてSNSアカウントの情報をどう書くかは、業種の言葉で列挙するのページで扱っています。
業務としての投稿は、禁止から外しておく
撮影やSNSの禁止を強く書くと、今度は通常の業務まで禁止しているように読めることがあります。SNS運用代行の案件では、依頼者から「SNSへの掲載・投稿の禁止」という文言について質問を受けました。この文言だけだと、承認済みの動画をクライアントのアカウントに投稿するという、受託者の本来の業務まで禁止と読めてしまいます。
第○条(撮影・投稿の禁止)第○項
1前項の規定は、乙が甲の指示に基づき本件業務として撮影し、又はクライアントのアカウントに投稿することを妨げない。
禁止の条の直後に、業務として行う場合を外す一文を置きます。業務の中心がSNSへの投稿である受託者ほど、この一文の有無で条文の読み方が大きく変わります。
同じことは、撮影が業務の一部である場合にも当てはまります。映像制作の外注先に「撮影の禁止」を課すなら、「本件業務に必要な範囲を超えて」という限定が欠かせません。サロンのスタッフでも、店の公式アカウントに載せるための施術写真を撮る業務があるなら、「店が指示した撮影と、店のアカウントへの投稿を除く」と書いておきます。禁止の範囲を正確に切ることは、出す側にとっても、違反を指摘するときに「それは業務の範囲だった」と反論されないための備えになります。
撮った写真の持ち主と、終了時の扱い
業務で撮影した写真や動画の扱いは、秘密保持と、成果物の権利の両面から決める必要があります。秘密保持の面では、業務で撮影したデータを私的に保存しないこと、業務が終われば出す側に引き渡したうえで削除することを定めます。成果物の権利の面では、撮影したデータの著作権が誰にあるかを本体の契約で定めます。
撮影したデータを私的に保存しないという義務は、データが受託者の端末に一時的に入ること自体を禁じるものではありません。撮影はスマートフォンや受託者のカメラで行うことが多く、データは必ず一度、受託者の手元に入ります。大切なのは、業務が終わった後に手元に残さないことと、業務の途中でも業務の外で使わないことです。そのため、私的保存の禁止は、返還・削除の期限(個別業務の終了後30日以内など)とあわせて書きます。
二つを混同すると、「著作権は受託者にあるのだから、自分のSNSに載せてよいはずだ」という主張が出てきます。著作権がどちらにあっても、秘密保持の義務がある限り、公開前の情報を含む写真を公開することはできません。秘密保持の条で「乙が作成した情報も秘密情報に含む」と書いておくのは、この主張を封じるためでもあります。反対に、受託者が自分の実績として作品を紹介するのを認めるなら、公開の時期と範囲を決めて、秘密保持の例外として書いておきます。
撮影・SNSをめぐる、出す側と受け取る側の視点
出す側(開示者)の設計
- 定義と管理の対象を「乙が取得し、又は作成した情報」に広げる。
- 撮影・録音・録画・スクリーンショット・共有リンクの転送・アカウントの共有を名指しで禁じ、業務として行う場合を外す。
- 二段階認証の設定先を、出す側の管理する端末にしておく。
受け取る側(受領者)の点検
- 業務として撮影・投稿する行為まで禁止と読める文言になっていないかを見る。
- 実績として作品を紹介してよい範囲(時期・方法)が決まっているかを見る。
- 私物の端末でログインする場合、終了時の手順が書かれているかを見る。
起きがちなこと
よくあるご質問
スタッフが撮ったお客様の写真をSNSに載せたら、どうなりますか?
誓約書やNDAで、顧客の写真(施術の前後の写真、施術風景、口コミの画面など)を個人のSNSやメッセージアプリに載せることを禁じていれば、違反になります。管理の対象を「受け取った情報」に限っていると、スタッフが自分で撮った写真が外れることがあるので、自分で取得・作成した情報も含めて書いておきます。
見学者にスマートフォンを預けてもらう根拠は、どう作ればよいですか?
見学者の誓約書に、撮影機器による記録の禁止を独立の号として書いておくと、預かる運用への協力をお願いする理由を説明しやすくなります。事前に全文をメールで送り、当日は署名欄のページを提出してもらう運用もあります。
SNSアカウントの二段階認証は、誰の電話番号で設定すべきですか?
出す側(アカウントの持ち主)が管理する端末や電話番号です。受託者の端末で設定していると、受託者が離脱した瞬間にログインできなくなります。契約でも「受託者の端末・電話番号で設定しない(承諾がある場合を除く)」と定めておきます。
共有フォルダのリンクを転送されたら、NDA違反になりますか?
複製や保存だけを禁じている契約では、捉えにくいことがあります。ID・パスワード・共有のためのURLを第三者に使わせない・転送しない、終了時に返上する、と書いておきます。共有の設定を、相手のアカウントを指定する形にしておくことも有効です。
撮影を禁止すると、業務で撮る写真まで禁止になりませんか?
書き方しだいでなり得ます。「本件業務に必要な範囲を超えて」撮影しないこと、そして「甲の指示に基づき本件業務として撮影・投稿することを妨げない」ことを書いておくと、通常の業務と禁止の範囲を切り分けられます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、取引の内容や相手の立場によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた秘密保持契約書(NDA)、守秘義務契約書、業務上の守秘義務誓約書、秘密保持を内包した業務委託契約書、共同研究契約書・覚書、試験委託のNDA、PoCの覚書などを、個別の事業者や案件が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会