このページの要点
- 出す側の基本は、包括的な定義に除外事由を組み合わせる形。表示の運用がないのに表示方式を選ぶと、守りたい情報ほど保護の外に落ちる。
- 事務所の約40通では、明示した情報と性質上秘密と認識される情報を併記する型が最も多い。
- 口頭の情報は「開示の時に告知すれば足りる」とし、書面化は補充的な確認にとどめる。
- 「一切の情報」と書いても、漏れた情報が秘密に当たることの立証は出す側に残る。範囲は合理的に画す。
結論:出す側は「包括+除外」を基本に、範囲を合理的に画す
秘密情報の定義の書き方には、主な型として、秘密である旨を表示した情報に限る「表示方式(明示方式)」と、表示の有無を問わず一定の範囲の情報を広く含める「包括方式」があります。出す側(開示者)にとっての基本は、包括的な定義に除外事由(秘密情報に当たらないもの)を組み合わせる形です。現場で一つひとつの資料に「秘密」と表示する運用は続かないことが多く、表示方式にすると、表示し忘れた情報が保護の外に落ちるからです。
一方で、包括方式にも限界があります。何でも秘密だと書けば、どの情報が秘密かを相手が見分けられなくなり、個人を相手にした契約では、広すぎる制限が限定して解釈されることもあります。そのため事務所の書類では、包括方式を採りながら、情報の類型を業種の言葉で列挙し(業種の言葉で列挙する)、除外事由をきちんと置いて(除外事由と残存知識)、範囲を合理的に画すようにしています。
三つの型と、事務所の書類での分布
事務所が2025年から2026年にかけて作成したNDA本体約40通(営業代行、化粧品の卸、シェアサロン、フランチャイズの加盟店、美容施術、漫画のアシスタント、動画編集、広告掲載、採用支援、介護のIT、オンライン秘書、設備工事、製造委託など)を中心に、2024年の書類も含めて並べると、定義の書き方は次のように分かれます。
秘密情報の定義の三つの型
| 型 | 書き方の例 | 事務所の書類での位置づけ |
|---|---|---|
| 併記型 | 「秘密である旨を明示した情報、又はその性質上合理的に秘密と認識される情報」 | 約40通の中で最も多い |
| 包括型 | 「秘密である旨の表示の有無を問わず、開示を受けた一切の非公開情報」 | 約40通の中で次に多い |
| 表示限定型 | 「秘密である旨を表示して開示した情報に限る」(口頭は一定期間内に書面で特定) | 少数。2024年の書類のうち、相手方から示された書式や、口頭の情報の書面化を定めたAI開発のNDAなど |
併記型は、表示のある情報は当然に含め、表示がなくても性質から秘密と分かる情報を拾う書き方です。表示の付け忘れに強く、包括型よりも範囲の説明がしやすい中間の型です。
業務委託契約の中に秘密保持を作り込んだ建設系の照査業務の契約でも、情報の類型を広く列挙したうえで「秘密である旨の表示の有無を問わない」と書きました。内包の形では、範囲が「この業務」に狭く読まれやすいため、表示を要件にしないことがとくに重要になります(NDAをどの形で結ぶか)。
表示限定型は、受け取る側にとっては「何を守ればよいか」が明確で、管理の負担も軽くなります。そのため、受け取る側から示された書式や、相手方が大企業の書式を使う技術案件で見かけることが多く、出す側が自分で作る書類では少数にとどまります。
定義の書き方を、出す側の保護の広さで並べると上ほど強く縛る書き方
- 包括型表示の有無を問わず、開示を受け又は知り得た非公開の情報を広く含める。口頭・現場での見聞き・共有フォルダで情報が渡る業種
- 併記型明示した情報と、性質・内容・開示の状況から合理的に秘密と認識し得る情報を並べる。表示の運用が一部しかない多くの取引
- 表示限定型(口頭は告知で足りる)書面は表示したものに限るが、口頭は開示の時の告知で足りる。書面の管理が整っていて、口頭のやり取りも多い技術案件
- 表示限定型(口頭は期間内に書面化)口頭の情報は一定期間内に書面で特定したものに限る。渡す情報の範囲がはっきりしている開発案件
- 表示限定型(書面化しなければ除外)期間内に書面化しなかった口頭の情報は秘密情報に含まれないと明記する。受け取る側の立場を優先する書式
下の段ほど、受け取る側にとって守る範囲がはっきりし、出す側にとっては表示や書面化を忘れたときの穴が大きくなります。
現場で表示を付けられない業種は、包括を維持する
映像制作会社が外注先と結ぶ基本契約のレビューでは、原案の「乙が知り得た一切の非公開情報」という定義について、制作の現場では弱点ではないと評価し、包括の定義を維持しました。出演者のキャスティングの情報は口頭で伝えることが多く、共有フォルダの素材にいちいち「秘密」の表示を付けるのは現実的ではありません。この業態で表示方式に切り替えると、最も守りたい情報ほど表示がなく、保護の外に落ちてしまいます。
この案件では、包括の定義を維持したうえで、定義の対象を「甲から開示された情報」だけでなく「乙が業務の過程で撮影・録音・録画し、取得し、又は作成した情報」にまで広げました。制作の現場では、外注先が自分で撮った写真や、自分で作った編集のデータの方が、受け取った資料よりも漏れやすいからです。この点は撮影・SNS・アカウントのページで詳しく扱います。定義の型を考えるときは、「表示するかどうか」と並んで、「誰が作った情報まで含めるか」も決めておく必要があります。
定義の型は、条文の美しさではなく、現場で情報がどう渡されているかで選びます。ヒヤリングでは、次のような点を確かめています。
ヒヤリングで確かめること定義の型を決めるための問い
- 情報は主にどの手段で渡しますか(書面、共有フォルダ、チャット、口頭、現場での見聞き)口頭や現場での見聞きが多いほど、表示方式は機能しません。
- 渡す資料に「秘密」「社外秘」の表示を付ける運用は、今ありますか表示の運用がないなら、表示を要件にする定義は選べません。
- 相手は法人ですか、個人ですか個人が相手の場合、範囲が広すぎると限定して解釈されやすいので、類型の列挙で範囲を示します。
- 相手から自社の情報を受け取ることもありますか相互型にする場合、自社が受け取る側に回る場面の負担も考えて型を選びます。
- 相手が業務の中で自分で撮影・作成するデータはありますかあるなら、定義を「開示された情報」に限らず、相手が取得・作成した情報にまで広げます。
- 相手方から書式を示されていますか相手方の書式が表示限定型なら、口頭の情報の扱いと書面化の期間を最初に確かめます。
技術案件で「表示した情報に限る」をやめた改訂
特殊なロボットの設計・技術支援を受ける技術者のNDAをレビューした案件では、レビューの対象となった原案が「秘密である旨を表示した情報」に限る方式で、口頭で伝えた情報は14日以内に書面化しなければ秘密情報に当たらない、という作りでした。レビューでは、研究開発の現場(制御の情報、実験のログ、試作の改良など)では、表示の付け忘れを理由に「秘密情報ではなかった」と反論される余地が大きいと指摘し、修正版で次のように改めました。
事務所の改訂例 表示方式から併記型へ
秘密情報の範囲
表示の付け忘れによる反論を封じ、現場で口頭や実物で伝わる技術情報を拾うため。
口頭・映像・会議での開示
書面化を要件にすると、期限を過ぎた情報が一律に保護の外に落ちるため。
修正版の「社会通念上又は合理的に秘密と認識し得る」という言葉は、秘密かどうかを出す側の主観ではなく、外から見た基準で決めるためのものです。「甲が秘密と考える情報」と書けば出す側に有利に見えますが、相手から見て何が秘密か分からない定義は、かえって争いを招きます。客観的な基準にしておけば、表示がなくても、試作品の内部構造や未発表の実験の結果のように、誰が見ても秘密と分かる情報は保護の内に入り、相手も何を守ればよいかを判断できます。
表示方式をやめる場合でも、何を守るのかを相手に伝える努力は残ります。事務所の書類では、疑義のある情報の扱いを決めておく書き方を併せて使っています。オンラインの日本語教師講座の外部講師向けNDAでは「秘密情報に当たるか疑義がある情報は、甲に確認するまで秘密情報として取り扱う」とし、同じ運営者の業務提携に付随するNDAでは「秘密情報であるとする甲の合理的な主張により決する」としています。
反対に、技術案件でも表示方式を残した例があります。AIによる需要予測ツールの開発のNDAでは、開示の目的を具体的に特定したうえで、口頭で開示した情報は14日以内に書面で特定する書き方を採っています。開発の対象と渡す情報の範囲が比較的はっきりしていた案件で、受け取る側の管理のしやすさと釣り合いを取ったものと見られます。同じ技術案件でも、研究開発の途中で情報が日々生まれる案件と、渡す資料があらかじめ決まっている案件とでは、選ぶ型が違ってよい、ということです。
口頭で伝えた情報の扱い:書面化の期間の比較
表示方式や併記型を採るとき、口頭で伝えた情報をどう扱うかは、条文の中で最もばらつきが大きいところです。事務所の書類を並べると、次のように分かれます。
口頭で開示した情報の書面化の期間
| 書き方 | どの書類で使われているか | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| 7日以内に書面で特定 | 制作会社どうしの相互NDAの書式 | 期間が短く、出す側が書面化を忘れやすい |
| 14日以内に書面で特定 | 受け取る側のレビューでの修正提案、AI開発のNDA | 受け取る側が範囲を明確にしたいときの水準 |
| 30日以内に通知・文書化 | 事務所の約40通のうち3通 | うち2通は「期間内に通知しなかった口頭の情報は秘密情報に含まれない」とする受け取る側寄りの書き方 |
| 相当な期間内に特定 | 遠隔の安全管理業務のNDA | 期間の争いが残るが、出す側の負担は軽い |
| 書面化は不要、開示の時に告知すれば足りる | 技術支援のNDAの修正版 | 出す側に最も有利。告知した事実の記録は残しておく |
出す側に立つなら、書面化を要件にしない書き方か、少なくとも期間内に書面化しなかったことを理由に秘密情報から外れない書き方(書面化は補充的な確認とする)を選びます。逆に、相手方の書式に「期間内に書面化しなかった口頭の情報は含まれない」とあれば、口頭で伝える情報が多い業務では、その条項が保護の穴になります。
「告知で足りる」と書いた場合でも、告知したことを後で示せるようにしておくと安心です。技術支援のNDAの修正版のように書面化を「任意(補完)」として残しておけば、その確認の手段が出す側の手元に残ります。打合せの後に送る議事メモやチャットで、秘密情報に当たる話題を書き添えておけば、それが補完の書面になります。
疑義のある情報の扱い方も、二つの書き方で効き方が違います。「甲に確認するまで秘密情報として取り扱う」は、受け取る側に確認という行動を求め、確認のやり取りが記録として残る書き方です。確認の結果、甲が「秘密ではない」と答えれば、その情報は外れます。「甲の合理的な主張により決する」は、判断を出す側に寄せる書き方で、出す側には有利ですが、「合理的」かどうかの評価をめぐる争いは残り、個人を相手にする契約では一方的と受け取られやすくなります。相手との力関係と、確認の手間をかけられるかどうかで選びます。
第○条(秘密情報の定義)
1本契約において「秘密情報」とは、開示の方法(書面、電磁的記録、口頭、映像、現物の提示その他一切の方法をいう。)を問わず、甲が乙に開示し、又は乙が本目的の遂行の過程で知り得た甲の技術上又は営業上の情報であって、秘密である旨が明示されたもの、及びその性質、内容又は開示の状況から合理的に秘密と認識し得るものをいう。
2口頭その他の有形でない方法で開示された情報については、開示の際に秘密である旨を告げれば足り、甲は、必要に応じて、その内容を書面又は電磁的記録により特定して乙に通知することができる。
3秘密情報に当たるか否かに疑義がある情報は、乙が甲に確認し、甲の回答を得るまでの間、秘密情報として取り扱う。
第2項の通知は内容を補って確認するためのもので、通知がないことを理由に秘密情報から外れるわけではない、という作りです。
第1項で開示の方法を列挙しているのは、書面や電子データ以外の渡し方を取りこぼさないためです。試作品を手に取って見せる、工場や撮影現場を見学させる、会議の画面で資料を映す、といった渡し方では、受け取る側の手元に何も残りません。「現物の提示」「映像」「見学」まで方法に含めておけば、目で見て覚えた情報も定義に入ります。製品の安全性試験や共同研究のように、試作品やサンプルを渡す取引では、とくにこの列挙が効いてきます(共同研究・試験受託)。
包括定義の限界:個人を相手にするときの注意
タレントやボランティアのスタッフを抱える配信系の事務所が自作したNDA(全14条)をレビューした案件では、依頼者から「全部を個別に定義すると、定義から漏れるたびに契約を巻き直すことになる。包括的な定義に除外事由を組み合わせれば足りるのではないか」という質問を受けました。事務所の回答は、包括的な定義と除外事由の組合せは標準的な書き方で有効、というものです。そのうえで、二つの留意点を伝えています。
- 個人を相手に、範囲が広すぎる制限を課すと、公序良俗(民法90条)や限定的な解釈によって、裁判所に範囲を縮められる余地がある。
- 漏れた情報が秘密情報に当たることの立証は、包括的に定義しても、出す側に残る。何でも秘密と書いても、立証の負担は軽くならない。
このため、包括的な定義を使いながらも、守りたい情報の類型を列挙し、範囲を「合理的な範囲」に画すことを提案しました。この案件では、タレントの演者を特定する情報(配信上の姿と演じている本人を結び付ける情報)を守ることが依頼者にとって最も重要で、事務所もその着眼点を評価しています。包括的な定義の中で、こうした特に重い情報を別に名指しして定義しておくと、違約金や存続期間をその情報に限って重くする設計が取りやすくなります(損害賠償・違約金・上限)。包括方式は「立証の負担を減らす書き方」ではなく、「表示の付け忘れに強い書き方」だと理解しておくと、使いどころを誤りません。
第○条(秘密情報の定義)第○項
1前項の秘密情報は、本目的に関連して甲が乙に開示し、又は乙が本目的の遂行の過程で知り得た情報に限るものとし、乙が本目的と関係なく取得した情報は含まない。
包括的な定義に「本目的に関連して」という限定を加え、範囲を合理的に画す書き方の例です。包括の利点(表示を問わないこと)は保ったまま、何でも秘密という読み方を避けます。
定義の広さは、不正競争防止法の「営業秘密」との関係でも意味を持ちます。営業秘密として同法の保護を受けるには、秘密として管理されていること(秘密管理性)などの要件を満たす必要があり(不正競争防止法2条6項)、NDAの締結や秘密の表示は、秘密として管理していることを示す事実の一つになります。一方で、範囲を「一切の情報」とすると、どの情報を秘密として管理しているのかが相手から見て曖昧になり、かえって管理の実態を示しにくくなる、という指摘もあります。営業秘密として不正競争防止法の保護を受けられるかどうかも、定義の広さとは別に、秘密としての管理の実態で決まります(差止め・事故報告と営業秘密)。
受け取る側の読み方
定義の条を、出す側と受け取る側はどう読むか
出す側(開示者)の設計
- 表示の運用がないなら、表示を要件にしない(併記型か包括型)。
- 口頭の情報は「告知で足りる」とし、書面化は補充的な確認にとどめる。
- 疑義のある情報は「確認するまで秘密として扱う」と決めておく。
受け取る側(受領者)の点検
- 明示を求める情報の後ろに「本契約の存在及び内容」「その他一切の情報」を続けて並べた定義は、明示の要件が最後の「一切の情報」にまでかかるのかどうかで、二通りに読める。争いになれば出す側は広い方の読み方を主張するので、広い方を前提に評価する。
- 受け取る側のレビューでは、末尾の「その他一切の情報」の語を外したうえで、口頭で伝えた情報は、開示の時に告知され、かつ14日以内に書面等で内容が特定されて通知されたものだけを対象にする、という修正を提案した例がある。
受け取る側の点検の詳細は、出す側の視点から外れるため、このページでは要点だけを示しています。
起きがちなこと
よくあるご質問
「一切の情報」と書いておけば、全部守れますか?
表示の付け忘れには強くなりますが、全部が守れるわけではありません。漏れた情報が秘密情報に当たることの立証は出す側に残り、個人が相手の場合は広すぎる制限が限定して解釈されることもあります。類型の列挙と除外事由を組み合わせて、範囲を合理的に画しておくのが基本です。
口頭で話したことも秘密情報になりますか?
契約の書き方しだいです。「開示の際に秘密である旨を告げれば足りる」と書いておけば含まれます。逆に「一定期間内に書面化しなかった口頭の情報は含まれない」と書かれていれば、期限を過ぎた情報は保護の外に落ちます。
秘密の表示を付け忘れた資料はどうなりますか?
表示限定型の契約なら、原則として秘密情報に当たらないと反論されます。併記型(明示した情報と、性質上秘密と認識される情報を併記する型)や包括型にしておけば、表示がなくても秘密情報に含められます。
表示方式と包括方式は、どちらが一般的ですか?
事務所が作成した約40通のNDAでは、明示した情報と性質上秘密と認識される情報を併記する型が最も多く、表示を問わない包括型が次に多い分布でした。表示限定型は、相手方から示された書式や一部の技術案件に限られます。
秘密かどうか分からない情報は、どう扱わせればよいですか?
「秘密情報に当たるか疑義がある情報は、甲に確認するまで秘密情報として取り扱う」と書いておく方法があります。相手が迷ったときに確認を求める手順にもなります。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、取引の内容や相手の立場によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた秘密保持契約書(NDA)、守秘義務契約書、業務上の守秘義務誓約書、秘密保持を内包した業務委託契約書、共同研究契約書・覚書、試験委託のNDA、PoCの覚書などを、個別の事業者や案件が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会