このページの要点
- 誓約書は平易な言葉のままでよい。直すのは文体ではなく、義務を外から見える行為で一つの意味に定めること。
- スタッフ・研修生・見学者・相談員・法人の利用者など、相手の立場ごとに中心になる条を選び、書類を分ける。
- 雇用されるスタッフには違約金・賠償額の予定を置かない。一枚で兼ねるなら対象を業務委託の相手に限る。
- 配布から回収まで1日以上空け、目的から始まる十項目を説明し、提出日と版を記録する。
結論:業務上の守秘義務誓約書は「お約束の文」ではなく、平易な言葉のまま義務を一つの意味に定める
ここで扱うのは、事業者がスタッフ、業務委託の相手、研修の参加者、撮影現場や施設の見学者などに差し入れてもらう「業務上の守秘義務誓約書」です。個人間のトラブルを解決するときに交わす示談の誓約書とは、目的も書き方も違います。
守秘義務誓約書は、相手が多く、一人ずつ条件を交渉しない場面で使う書面です。内容は事業者が用意し、相手は読んで署名します(NDAをどの形で結ぶか)。そのため、相手が自分で読んで分かる平易な言葉で書くことが大切ですが、平易さと引き換えに、義務の範囲があいまいになってしまう書類が少なくありません。「きちんと管理します」「絶対に外に出しません」といった一人称の「お約束の文」は、気持ちは伝わっても、何をすれば違反なのかが決まらないからです。誓約書を作るときに守りたい点は、四つに整理できます。
- 平易な言葉のまま、義務の内容を一つの意味に定める(何をしてはいけないかを、外から見える行為で書く)。
- 相手の立場(雇用・業務委託・研修・見学・相談員・法人の利用者)ごとに、必要な条を選んで書き分ける。
- 雇用されるスタッフには、違約金や賠償額の予定を置かない。
- 署名の前に説明の時間をとり、説明したことと署名したことの記録を残す。
ヒヤリングで確かめること誓約書を作るための問い
- 誰に書いてもらいますか(正社員・パートタイマー・業務委託・研修生・見学者・相談員・利用者の法人)立場ごとに必要な条が違い、雇用のスタッフには違約金を置けないため、最初に立場を洗い出します。
- その人は、どんな情報に、どの場面で触れますか顧客の情報、施術や接客の方法、撮影現場、相談の内容など、触れる情報から誓約の中身を決めます。
- その人が、写真や動画を撮る機会はありますかあるなら、撮影・保存・投稿の禁止と、業務として行う撮影の除外を書きます。
- 関係が終わるとき、何を返してもらい、何を消してもらいますか退職・終了の時の削除・返還と、確認の書面の提出を決めます。
- 紙で署名してもらいますか、電子で署名してもらいますか電子に抵抗がある人のために、紙との並行運用を考えます。
- 既に雇用契約や業務委託契約に秘密保持の定めはありますかあるなら、誓約書との関係(どちらが優先するか)を書きます。
誓約の文体を直す:平易さは保ち、義務を一つの意味にする
タレントやボランティアのスタッフを抱える配信系の事務所が自作したNDA(全14条)は、全体が一人称の誓約の文体で書かれていました。語尾は「〜しません」「〜します」で、「きちんと管理します」「やりすぎません」「外部に絶対に出しません」のような表現が並び、前文に義務が混ざり、定義語が条文の途中に埋め込まれていました。
依頼者からは「タレントやスタッフが相手なので、あえて平易にした。契約書の文体は自由のはずだ」という反論がありました。事務所の回答は、契約書の文体を決めた法律はなく、やさしい言葉で書いても契約の効力は変わらない、というものです。そのうえで、直すべきは文体ではなく義務の内容を一つの意味にすることで、それは平易なままでも実現できる、と説明しました。不明確な表現は、いざというときに限定的に読まれ、出す側が期待した範囲より狭くしか効かないからです。
事務所の改訂例 誓約の文体の書類を、平易なまま直す(直し方の例)
管理の義務
「きちんと」の中身を、外から確かめられる行為にする。
例外の書き方
「絶対に」と書いた後に例外を並べると、どちらが優先するのかが分からなくなる。
SNSでの反応
「受け取られかねない」では、裁判所が違反かどうかを判断できない。外形的な行為に落とす。
定義語
定義が条文に埋もれると、後の条で使われたときに意味を探せない。
前文に義務が混ざっているのも、誓約の文体の書類でよく見かける形です。前文は、誓約書の目的や経緯を述べる部分で、本文の条項のように番号が振られていないことが多いため、前文の中に「〜を守ります」と書かれていても、それが本文のどの義務と関係するのか、本文と食い違ったときにどちらが優先するのかが分かりません。義務は本文の条項に集め、前文は目的の説明にとどめる、という整理だけでも、誓約書はずっと読みやすくなります。
この案件では、演者を特定する情報(配信上の姿と演じている本人を結び付ける情報)の保護に着目した点を、依頼者の工夫として評価しています。誓約書で守りたいものを見極める目は、依頼者がいちばんよく持っています。事務所の仕事は、その着眼を、外から違反を判断できる言葉に置き換えることです。守りたい情報の書き方は業種の言葉で列挙する、撮影やSNSの禁止の書き方は撮影・SNS・アカウントで詳しく扱っています。
誓約書の種類:相手の立場で書き分ける
事務所が作成した誓約書を相手の立場ごとに並べると、同じ「守秘義務誓約書」でも、中心になる条がまったく違います。
相手の立場ごとの誓約書の中心
| 相手 | 中心になる条 | 事務所の書類での工夫 |
|---|---|---|
| サロンのスタッフ(雇用・業務委託・研修生を問わない) | 顧客の情報・写真の扱い、SNS・メッセージアプリ、保存・転送の禁止、退職時の削除・返還 | 対象者を「正社員、契約社員、パートタイマー、業務委託、研修生その他いかなる立場であれ」と書いた一枚もの。条項ごとの解説と説明の手順書を添付 |
| サロンの研修だけの参加者 | 研修の位置づけ、調査・偵察や競業のための参加をしないこと、研修中に知った顧客を勧誘しないこと、研修資料の複製・撮影・録音・持ち出しの禁止 | スタッフ用とは別の短い誓約書 |
| 撮影現場の見学者 | 撮影機器による記録の禁止、資料の持ち出しの禁止、第三者の範囲の明記、類似作品の企画などへの利用の禁止 | 前文で「法的拘束力を有する内容として確約」。事前にメールで全文を送り、当日は署名欄のページだけの提出でも全文に同意したものとみなす、と注記 |
| オンライン相談の相談員(医療資格者) | 守秘、個人情報の保護、記録の禁止、利用者への私的な連絡の禁止。登録の抹消の後も存続 | 登録の誓約書として作り、事業者どうしの提携のNDAとは別建て |
| 法人向けの支援サービスの利用者(法人) | セッションの録音・録画・AIによる文字起こしの禁止、社内での共有の条件、保存期間と削除の方法 | サービスの定義に「人事評価・査定を含まない」と入れ、守秘の情報を内部の評価に使わない設計 |
| 企業出張型のリラクゼーションのセラピスト | 訪問先で知った情報の扱い | 汎用・営業担当用とは別のセラピスト用の版 |
表のうち、法人向けの支援サービスの誓約書は、事業者が利用者の側に差し入れてもらう、向きの逆の誓約書です。セッションで話す個人の発言が、利用者の会社の中で人事の評価に使われないようにするための書面で、レビューでは「内部評価」「査定」という言葉を定義しておくよう指摘しました。誓約書は、事業者が自分の情報を守るためだけでなく、自分のサービスの利用者の信頼を守るためにも使われます。
オンライン相談の相談員の書類を、登録の誓約書と提携のNDAに分けたのは、相手の立場が二つあるからです。相談員は、個人として相談に応じる立場では利用者の情報を守る義務を負い、事業者として提携する立場では事業者どうしの情報を守る義務を負います。一つの書類にまとめると、利用者の情報の扱いと、事業者どうしの取引条件の扱いが混ざり、どちらの義務がいつまで続くのかが分かりにくくなります。登録の誓約書では、登録が抹消された後も守秘の義務が続くことを明記しています。
研修だけの参加者に、スタッフ用の長い誓約書をそのまま使うと、参加者には関係のない条(退職時の扱いなど)が並び、何に同意したのかが分かりにくくなります。相手の立場が違えば、短くても別の誓約書を用意する方が、説明もしやすく、署名の意味もはっきりします。
雇用されるスタッフと業務委託の相手:一枚で兼ねるときの書き分け
サロンのように、正社員、パートタイマー、業務委託のスタッフ、研修生が同じ店で同じ情報に触れる業態では、全員に同じ誓約書を使いたいという要望がよくあります。一枚の誓約書で兼ねることはできますが、そのときに書き分けが必要になる条があります。
最も重要なのは、違約金と賠償額の予定です。労働基準法16条は、使用者が、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をすることを禁じています(違反には同法119条1号の罰則があります)。業務委託の相手には違約金を置けても、雇用されるスタッフには置けません。一枚で兼ねるなら、違約金の条は業務委託の相手にだけ適用されるように対象を限るか、違約金の条そのものを置かずに、実際に生じた損害の賠償にとどめます(損害賠償・違約金・上限)。契約の名前が業務委託でも、働き方の実態が労働基準法上の労働者(同法9条)に当たる場合は、同じ問題になり得る点にも注意が要ります。
次の条文例は、一枚の誓約書の中で雇用と業務委託を書き分ける場合の例示として作ったもので、特定の書類の文言をそのまま示すものではありません。
雇用と業務委託を書き分ける場合の例示 第○条(違反の場合の責任)
1私が本誓約書に違反し、貴社に損害を与えたときは、その損害を賠償します。
2私が貴社から業務の委託を受けている者であるときは、前項に加えて、貴社が別に定める業務委託契約の違約金の定めに従います。
3前項の定めは、私が貴社に雇用されている者であるときは適用しません。
第1項は立場を問わず適用される実際の損害の賠償、第2項は業務委託の相手にだけかかる定めです。第3項で、雇用されるスタッフには違約金や損害賠償額の予定にあたる定めがかからないことを明らかにしています(労働基準法16条)。
もう一つ、誓約書の範囲を超えやすいのが、退職後の競業の制限や就業規則との関係です。在職中・退職後の競業の制限まで誓約書に入れた書類もありますが、雇用されるスタッフの退職後の競業避止や、就業規則・雇用契約の作り方は、労務の領域の問題になるため、このサイトでは扱いません。このページで扱うのは、守秘義務の誓約書としての条項の設計に限られます。
署名の前の説明:十の項目と、その順番
サロンのスタッフ向けの誓約書には、署名の前の説明の手順書を添えています。誓約書を渡して「読んでおいて」で済ませると、後で「理解していなかった」と言われる原因になるからです。説明は、次の順番で行うよう案内しています。
- 目的:お客様の安心のため、そして「言った・言わない」を防ぐための書面であること。
- してはいけない行為の具体例:自分のSNSにお客様の写真を載せる、価格表をLINEで外部に送る、など。
- 退職した後も続くこと:退職後にお客様にDMで営業する、などの例。
- SNS・LINE・スクリーンショット:顔が写っていなくても、施術の内容や髪型でお客様が特定され得ること。
- 保存・転送の禁止:私物の端末やクラウドに保存しない、転送しない。
- 退職時の削除・返還:削除と返還をすること、確認の書面の提出を求めることがあること。
- 違反したときの責任:損害の賠償を求められることがあること。
- 正式な文書であること:形式的な書類ではなく、効力のある書面であること。
- 電子署名も有効であること:紙と電子のどちらでも署名できること。
- 質問を受けてから署名:分からない点を確かめてから署名してもらうこと。
この順番は、「なぜ必要か」から入り、「何をしてはいけないか」を具体例で示し、「いつまで続くか」「違反したらどうなるか」を伝えたうえで、最後に質問を受ける、という流れになっています。いきなり違反の責任から説明すると、相手は身構えて、誓約書を「罰するための書面」と受け取りがちです。目的から入ることで、誓約書が店とスタッフの信頼関係を守るための約束であることが伝わります。
締結のときに起きるトラブルと、その対応
同じ誓約書には、締結のときに起きがちなトラブルと、その対応をまとめた手順書も添えています。事務所が整理した六つの類型は、次のとおりです。
誓約書の締結のときのトラブルと対応
| トラブル | 対応 |
|---|---|
| 「理解していなかった」と言われる | 配布から回収まで1日以上空ける。要点を1枚にまとめた資料を添える。重要な3項目は口頭で説明する。「説明を受け、理解した」旨の確認をLINEや紙で取る。同席者に記録してもらう |
| 日付・署名の記入漏れ | 回収のときに、その場で紙面を確認する。提出のチェックリストを使う |
| 「本当に効力があるのか」と聞かれる | 罰するための書面ではなく、信頼関係を守るための約束だと伝える |
| 「業務委託だから縛られない」と言われる | 業務委託契約とは別紙で交付する。情報に触れる立場なら守秘は生じることを伝える。誓約書の提出を委託の条件として明示する。拒まれたときは、文書化した同意や書面での通知など代わりの方法をとる |
| 電子署名への抵抗 | 紙での署名と並行して運用する |
| 提出の後に「一部だけ直してほしい」と言われる | 原則として応じない。例外として直すときは、代表者とスタッフの双方が署名する別紙の覚書にする |
六つ目の「一部だけ直してほしい」に原則として応じないのは、スタッフごとに内容の違う誓約書が増えると、誰がどの内容を約束しているのかを管理できなくなるからです。どうしても直すなら、誓約書そのものを書き換えず、代表者とスタッフの双方が署名した別紙の覚書で、どこをどう変えたのかを記録に残します。一つ目の対応にある「説明を受け、理解した」旨の確認は、LINEでの一言の返信でも記録になります。紙の確認書を別に作らなくても、日常の連絡ツールで残せる記録を使えば、手間をかけずに説明の事実を残せます。
四つ目の「業務委託だから縛られない」は、とくに多い反応です。業務委託の相手は事業者として独立して仕事をしているので、雇用のスタッフと同じ書類を求められることに抵抗を感じることがあります。その場合でも、店の顧客の情報に触れる立場であれば守秘は欠かせないので、誓約書の提出を委託の条件として最初に示しておくことが大切です。後から求めると、条件の後出しと受け取られます。業務委託の相手との契約そのものに秘密保持を書くか、別のNDAにするかは、目的外利用と開示の範囲で見た再委託や業務従事者の書き方とあわせて決めます。
回収・保管と、終了のときの確認
誓約書は、署名してもらって終わりではありません。手順書の巻末には、回収のときに確かめる五つの項目のチェックリストを付けています。
- 配布から回収まで、1日以上空けたか。
- 要点をまとめた資料を渡したか。
- 日付・署名・押印の漏れはないか。
- 電子と紙のどちらで署名するか、選べるようにしたか。
- 提出された日を記録したか。
提出された日の記録は、後で「いつ誓約したのか」が問題になったときの手がかりになります。誓約書の内容を改訂したときは、どのスタッフがどの版に署名したのかが分かるように、版と提出日を一緒に記録しておきます。見学者の誓約書のように、署名欄のページだけを提出してもらう運用では、事前に送った全文の版も保存しておきます。
電子で署名してもらう場合や、オンラインのフォームで同意してもらう場合は、誰が、いつ、どの版に同意したのかの記録が、紙の誓約書の保管に代わります。オンラインスクールの運営スタッフ向けの守秘義務契約書では、フォームでの同意の版と、当事者を特定して署名する電子契約の版を両方用意しました。たとえば、関与の浅い協力者にはフォームで、運営の中心にいるスタッフには電子契約で、と使い分ければ、手間と証拠の確かさのつり合いを取ることができます。
スタッフが退職するとき、業務委託が終わるときは、誓約書に書いた削除・返還を実際に行ってもらい、その確認の書面を受け取ります。説明の手順書でも、退職時に確認の書面の提出を求めることがあると、署名の前に伝えるよう案内しています。終わりの場面で確認をしておかないと、誓約書に書いた義務が実際に果たされたのかどうかが分からないまま関係が終わります。削除の確認の書き方は、返還・廃棄・証明で見た証明の書き方を、誓約書の相手に合わせて簡単にしたものが使えます。
起きがちなこと
よくあるご質問
アルバイトや業務委託のスタッフにも、守秘義務誓約書を書いてもらえますか?
書いてもらえます。ただし、雇用されるアルバイトには、違約金や賠償額の予定を置くことはできません(労働基準法16条)。業務委託の相手には置けるので、一枚で兼ねるなら違約金の条の対象を業務委託の相手に限るか、違約金を置かずに実際の損害の賠償にとどめます。
誓約書への署名を拒まれたら、どうすればよいですか?
まず目的と内容を説明し、質問を受けます。業務委託の相手なら、誓約書の提出を委託の条件として最初に示しておくことが大切です。それでも拒まれた場合は、文書化した同意や書面での通知など、代わりの方法を検討します。
誓約書は、どう保管すればよいですか?
提出された日と誓約書の版を記録して保管します。内容を改訂したときに、どのスタッフがどの版に署名したかが分かるようにしておくためです。署名欄のページだけを提出してもらう運用では、事前に送った全文の版も保存しておきます。
見学者に誓約書を書いてもらうには、どうすればよいですか?
見学者向けの短い誓約書を用意し、撮影機器による記録の禁止、資料の持ち出しの禁止、第三者の範囲などを書きます。事前にメールで全文を送り、当日は署名欄のページだけを提出してもらう運用にすると、受付の手間を減らせます。
誓約書の文体は、やさしい言葉でも有効ですか?
有効です。文体を定めた法律はありません。直すべきは文体ではなく、義務の内容を一つの意味に定めることです。「きちんと管理します」ではなく「パスワードで保護された場所に保管します」のように、外から確かめられる行為で書けば、平易なままでも効く誓約書になります。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、取引の内容や相手の立場によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた秘密保持契約書(NDA)、守秘義務契約書、業務上の守秘義務誓約書、秘密保持を内包した業務委託契約書、共同研究契約書・覚書、試験委託のNDA、PoCの覚書などを、個別の事業者や案件が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会