このページの要点
- 情報を類型に分け、1類型につき8〜12個の具体語を業種の言葉で並べ、「これに限らない」と結ぶ。
- 一部が公知でも組合せには秘密性があること、複製・要約・加工した派生情報も秘密情報であることを書く。
- 自社が第三者から預かった情報や、第三者との契約の存在・内容も秘密情報に加え、同じ水準で守らせる。
- 類型を、存続期間・違約金・返還の扱いを変える単位として使う。
結論:秘密情報は、類型ごとに8〜12個の具体語で列挙する
「営業上又は技術上の情報」とだけ書いた定義は、法律家には読めても、現場で働く人には何が対象なのかが分かりません。現場の人が「これは秘密だ」と気づけない定義は、管理の場面で機能しませんし、違反が起きたときも「そこまでは秘密だと思わなかった」という反論を許します。事務所の書類では、包括的な定義(表示方式か包括方式か)の下に、情報の類型を立て、それぞれに業種の言葉で具体例を並べる書き方をしています。目安は、1類型につき8〜12個の具体語です。
列挙は例示であって、列挙したものだけが秘密情報になるわけではない、と書いておくのが前提です。「次に掲げる情報を含むがこれに限らない」と結んでおけば、列挙は範囲を狭めるのではなく、範囲を相手に伝える働きをします。
列挙には、もう一つの効き目があります。包括的な定義でも、漏れた情報が秘密情報に当たることの立証は出す側に残ります(表示方式か包括方式か)。けれども、列挙に挙げた情報であれば、当事者が秘密情報として扱うことに合意していたことが条文から読み取れるので、その点の議論は短くて済みます。最も守りたい情報ほど、包括的な定義に任せず、列挙の中に名前を挙げておく価値があるのはそのためです。
ヒヤリングで確かめること列挙の材料を集めるための問い
- 相手に渡す資料・データ・アカウントを、日々の業務の順に挙げてください条文の言葉ではなく、依頼者が社内で使っている呼び名で集めます。それがそのまま具体語になります。
- 相手が業務の中で自分で作る・撮る・聞くものは何ですか渡す情報だけを列挙すると、相手が現場で取得する情報が漏れます。
- 漏れたときに一番困る情報は何ですか最も重い情報は類型の先頭に置き、存続期間や違約金を重くする単位にします。
- 取引先や顧客から預かっている情報はありますか自社のものでない情報は、第三者の情報として別に書き出します。
- 自社が誰かに守秘義務を負っている情報はありますか取引先とのNDA、以前の取引先との合意、顧客との約束などを棚卸しします。
11類型の列挙:SNS運用代行の外注先向けNDA
SNS運用代行会社が6つの職種の外注先と結ぶNDAでは、事務所が依頼者の原案(全4条)を全面的に改訂し、秘密情報を11の類型に分けて、それぞれに具体語を並べました。条の数を増やすことではなく、この粒度で書くことを、NDAが薄いか厚いかの基準にしています。
秘密情報の11類型と具体語の例
| 類型 | 具体語の例 |
|---|---|
| クライアント情報 | 名称、担当者、契約条件、報酬額、交渉の経緯 |
| 出演者情報 | 芸名、振込口座、出演料、健康上の配慮事項、所属事務所 |
| 未公開コンテンツ | 台本、構成案、編集用のプロジェクトファイル、撮影したままの素材、修正の履歴 |
| SNSアカウント情報 | ID、パスワード、二段階認証の情報、インサイト、広告アカウント |
| 運用実績 | 投稿ごとの数値、改善の経緯、分析の資料 |
| 営業・価格情報 | 原価の構造、利益の配分、外注先の選定の基準 |
| 業務フロー・ノウハウ | 作業の手順、チェックの方法、生成AIの活用方法 |
| 協力会社の情報 | 協力会社・他の受託者の単価、体制 |
| 個人情報 | DMやコメントから知った視聴者の情報 |
| ツール情報 | 使っている管理ツール、共有フォルダの構成、設定 |
| 派生情報 | 上の情報を複製・要約・加工して作った資料 |
表には各類型の代表的な語だけを載せています。実際の条文では、1類型につき8〜12個程度の語を並べています。
この粒度で書くと、外注先のスタッフが条文を読んだだけで、「出演者の健康上の配慮事項も秘密なのか」「他の受託者の単価を話してはいけないのか」と具体的に理解できます。ヒヤリングでは、依頼者が日々の業務で扱っている資料やデータを一つずつ挙げてもらい、それを類型に振り分ける作業から始めます。
「協力会社・他の受託者の単価」を独立の類型にしたのも、この案件の特徴です。複数の外注先に同じ種類の仕事を出していると、外注先どうしが単価の情報を交換するだけで、依頼者の価格の交渉の余地が失われます。自社の情報ではなく、他の外注先との取引の条件であるため、書いておかないと秘密情報だと意識されにくい情報です。
11類型の中で見落とされやすいのが「業務フロー・ノウハウ」に含めた生成AIの活用方法です。どの作業にどのAIをどう使っているか、どんな指示文で品質をそろえているかは、外注先にとっても価値のあるノウハウで、書いておかなければ秘密情報だと気づかれません。反対に、外注先に生成AIを使わせるときの条件は、別の条で定めます(生成AI・外部サービスへの入力)。秘密情報としてのノウハウと、入力の制限とは、別の問題として書き分けます。
業種ごとの列挙の例
同じ作業を業種ごとに行うと、守るべき情報の顔ぶれは大きく変わります。事務所の書類から、業種ごとに特徴的な語を拾うと次のとおりです。
業種の言葉で書いた秘密情報の例
| 場面 | 特徴的な具体語 |
|---|---|
| サロンのスタッフ | 顧客のカルテ、嗜好、クレームの履歴、施術前後の写真、広告のバナー、ポイント制度 |
| 撮影現場の見学者 | 作品のタイトル、配役、衣装、ヘアメイク、ロケ地、照明・音響の設計、タイアップの内容 |
| コーチング | 相談の内容、ジャーナリングの記載、面談の録画とその書き起こし |
| 建設分野の技術顧問の候補者 | 土地の情報、未公開の案件、レポートの構成、AIの活用方法 |
| 動画編集の外注 | 管理画面の情報、再生数、ログイン情報 |
| サロンの研修参加者 | 施術の技術、接客の方法、研修の資料 |
| 製品の安全性試験の受託 | 出願中の特許の情報、広告宣伝の予定内容 |
第○条(秘密情報の例示)
1乙は、次に掲げる情報が秘密情報に含まれることを確認する。ただし、秘密情報はこれらに限られない。
2(1)顧客に関する情報(氏名、連絡先、カルテ、施術の履歴、嗜好、クレームの履歴、施術の前後の写真その他顧客から取得したすべての情報) (2)施術及び接客の方法、研修の資料、マニュアル (3)価格、キャンペーン、ポイント制度、広告のバナーその他の販売促進に関する情報 (4)仕入先、取引条件、売上その他の経営に関する情報
サロンのスタッフ向けの書類と研修参加者向けの書類で使っている語を、例示の条の形にまとめたものです。号ごとに業種の言葉を並べ、最初の項で「これらに限られない」と結んでいます。
表を見ると分かるとおり、列挙の語は「その業種で実際に漏れやすいもの」から選んでいます。撮影現場の見学者なら、ロケ地や衣装はSNSに一枚の写真を載せるだけで漏れます。コーチングなら、相談の内容そのものが最も重い秘密です。何が漏れやすいかは、撮影・SNS・アカウントのページで扱う「漏えいの経路」とセットで考えると、列挙の漏れが減ります。
同じ事業者でも、相手の役割によって触れる情報は違います。企業に出張してリラクゼーションを提供する事業のNDAでは、汎用の版のほかに、セラピスト用と営業担当用の版を分けて作りました。訪問先の企業で施術をするセラピストと、企業に提案をして回る営業担当とでは、触れる情報の顔ぶれがまったく違うからです。役割ごとに版を分けるのが手間なら、共通の本文に「役割別の秘密情報の例」を別紙で付ける方法もあります。
列挙に個人情報を入れるときは、NDAの義務と個人情報の保護に関する法律の義務の両方がかかる点に注意が要ります。顧客の個人データの取扱いを外注先に委託する事業者は、委託先に対して必要かつ適切な監督を行わなければなりません(個人情報の保護に関する法律25条)。オンライン相談サービスで医療資格を持つ相談員と結ぶ書類では、守秘の誓約とは別に、利用者の情報を共有するための同意書を用意しています。NDAで「個人情報」を類型の一つとして挙げるだけでなく、どの情報を、誰に、何のために渡すのかを、別の書類と組み合わせて整理しておくと、監督の実態も示しやすくなります。
組合せ(モザイク)と派生情報
個々には公開されている情報でも、集めて整理し、分析した結果には価値があります。たとえば、公開されている投稿の数値を集めて作った分析の資料や、公表されている部材を組み合わせた設計の考え方です。こうした情報を守るには、除外事由(公知の情報など)に一部が当たっても、組合せとしては秘密情報になると書いておく必要があります。
第○条(秘密情報の範囲の補足)
1秘密情報の一部に公知の情報その他前条ただし書の各号に該当する情報が含まれる場合であっても、情報の組合せ、整理の方法、分析の方法、利用の目的又は案件との関連性に秘密性が認められる限り、当該情報は秘密情報に該当する。
2秘密情報の一部が除外事由に該当する場合であっても、その余の部分及びその組合せは、なお秘密情報として取り扱う。
3秘密情報を複製し、要約し、翻訳し、又は加工して作成された情報(以下「派生情報」という。)は、元の秘密情報と同様に秘密情報として取り扱う。
第1項はSNS運用代行のNDA、第2項は日本語教師講座の講師向けNDAとコーチング講座のNDA、第3項は複数のNDAで使っている書き方を組み合わせたものです。
派生情報の扱いは、返還・廃棄の場面にも効いてきます。受け取った資料を要約したメモや、資料をもとに作った自分用の手順書も、派生情報として削除の対象になるからです(返還・廃棄・証明)。また、派生情報の存続期間は元の情報と同じとしておくと、どの期間が適用されるかで迷いません。
組合せの条がとくに効くのは、SNS運用代行の「運用実績」のような情報です。投稿ごとの数値の一つひとつは、アカウントを見れば誰でも分かるものもあります。しかし、どの投稿の何が効いたかを整理し、改善の経緯と結び付けた資料は、運用代行会社のノウハウそのものです。組合せの条がないと、受け取る側は「元の数値は公開されているから公知の情報だ」と主張でき、除外事由の争いに持ち込まれます。
第三者の情報と、自社が負っている守秘義務
出す側が相手に渡す情報の中には、自社のものではない情報が混ざります。取引先から預かった情報や、以前の取引先との関係で知った情報です。オンラインの日本語教師講座の運営者が外部講師と結ぶNDAでは、依頼者ご自身が以前の取引先に守秘義務を負っているという事情を伺い、秘密情報の範囲を改訂しました。
ご質問と回答講師に以前の取引の事情を話してよいか
- 講座を始めるまでの経緯として、以前の取引先との関係を講師に話してもよいですか依頼者自身が、以前の取引先との契約の終了の合意で守秘義務を負っていました。講師に話すこと自体が、その合意への違反になり得ます。話すのであれば、講師にも同じ水準で守らせる必要があります。
- 講師から漏れた場合、以前の取引先から自社が請求を受けることはありますかあり得ます。そのため、講師の漏えいによって第三者から請求を受けたときの賠償の条を、NDAと業務委託契約の両方に追加しました(違約金・損害賠償のページで扱います)。
事務所の改訂例 第三者の情報を秘密情報に加える
秘密情報の範囲
依頼者自身が第三者に対して負っている守秘義務を、講師にも同じ水準で守らせるため。
第三者の情報を加えると、講師の漏えいが依頼者の第三者に対する違反につながる構造が条文の上で見えるようになり、第三者から請求を受けたときの賠償の条(損害賠償・違約金・上限)とも結び付きます。自社が誰に対してどんな守秘義務を負っているかは、外注先との契約を作る前に棚卸ししておくべき事項です。
自社が負っている守秘義務の棚卸し
| どこから来る義務か | 外注先との書類での手当て |
|---|---|
| 取引先・発注元とのNDAや業務委託契約 | 取引先の情報を秘密情報の類型に入れ、存続期間を取引先に負う期間以上にする |
| 以前の取引先との契約やその終了の合意 | 第三者との契約の存在・内容・経緯を秘密情報に含める |
| 顧客との利用規約・プライバシーポリシー | 顧客の情報の利用目的を、顧客に約束した範囲に合わせて限定する |
| 共同研究・試験の相手方との契約 | 相手方の未公表の情報や試料の扱いを、同じ水準で守らせる |
外注先との書類の義務が、自社が負う義務より軽いと、その差の部分で起きた漏えいは自社だけが責任を負うことになります。期間の合わせ方は存続期間のページで扱います。
類型を、存続期間・違約金・返還の単位に使う
類型ごとに情報を書き分けておくと、定義の条以外の条でも、その類型を単位にして扱いを変えられます。SNS運用代行のNDAの改訂版では、依頼者の希望を受けて、11類型のうち五つを期限なしで守らせ、残りを契約の終了後5年とする二段の設計にしました。
類型ごとに存続期間を分けた例
| 扱い | 類型 |
|---|---|
| 期限なし | クライアント情報、営業・価格情報、業務フロー・ノウハウ、個人情報、SNSアカウント情報 |
| 契約の終了後5年 | 未公開コンテンツ、運用実績、ツール情報など |
| 元の情報と同じ期間 | 派生情報 |
依頼者からの質問に答えて、5年の対象を具体例で示し、派生情報は元の情報と同じ期間とする補足を推奨しました。
同じ考え方は違約金にも使えます。配信系の事務所のNDAのレビューでは、損害賠償の条に違約金を加えるにあたり、対象を演者を特定する情報の違反に限ることを提案しました。全部の違反に一律の違約金をかけるより、最も重い類型に絞った方が、金額の根拠を説明しやすく、裁判所にも受け入れられやすいからです。返還・削除でも、類型ごとに「返還」「削除」「引き渡したうえで削除」を書き分けることがあります(存続期間の設計、返還・廃棄・証明)。列挙は、契約全体の部品表の役割を果たします。
類型を単位に、開示の手続そのものを変える例もあります。コーチング講座を運営する個人の依頼者のNDAは相互型で、双方が自分の顧客の情報を相手に見せる場面がありました。そこで、個別の顧客の情報だけは、開示の都度、開示する範囲と目的を書面で特定する手続を設け、その書面で認めた範囲でだけ複製や利用を認める形にしています。すべての情報に同じ手続をかけると運用が回りませんが、最も重い類型に限れば、手続の手間と保護の厚さの釣り合いが取れます。
契約の存在そのものを秘密にするか
「本契約の存在及び内容」を秘密情報に含める書き方は、技術支援のNDAなど、取引をしていること自体を知られたくない場面で使われます。新製品の開発を外部の技術者に頼んでいることが知られるだけで、開発の方向が推測されることがあるからです。
一方で、受け取る側にとっては、自分の実績として取引先の名前や関与した事実を示せなくなるという負担があります。日本語教師講座の講師向けNDAでは、「乙が講師を務めた事実」を秘密情報から除外し、講師が自分の経歴として講座の講師を務めたことを言えるようにしました。契約の存在を秘密にするかどうかは一律に決めず、取引の性質と、相手が実績を示す必要性とを比べて決めます。
契約の存在に近い情報として、取引の相手の名前そのものがあります。建設系の照査業務の契約では、発注元とその先の会社の情報を秘密情報とし、期限を設けずに守らせる形にしました。誰から仕事を受けているかという取引の構造そのものが、競争上の価値を持つ業界だからです。反対に、制作物の実績公開が当然とされる業界では、公開してよい範囲(公開の時期、名前を出してよいか、成果物の画像を載せてよいか)を、秘密情報の除外として書くか、別の条で許諾として書くかを決めておくと、後の行き違いを防げます。
列挙をめぐる、出す側と受け取る側の視点
出す側(開示者)の設計
- 類型ごとに具体語を並べ、「これに限らない」と結ぶ。
- 組合せと派生情報を秘密情報に含める。
- 自社が第三者に負っている守秘義務の対象を、秘密情報に加える。
受け取る側(受領者)の点検
- 列挙が「これに限る」と読める書き方になっていないかを見る(受け取る側には有利だが、出す側が意図していないことが多い)。
- 自分の実績として示したい事実(関与した事実・作品名など)が秘密情報に含まれていないかを見る。
- 派生情報まで返還・削除の対象になるなら、自分の作業メモの扱いを確認する。
起きがちなこと
よくあるご質問
秘密情報の例は、どこまで細かく書けばよいですか?
事務所の書類では、情報を類型に分け、1類型につき8〜12個程度の具体語を並べることを目安にしています。現場の人が条文を読んで、何が秘密かを具体的に理解できる粒度です。最後に「これに限らない」と結んで、列挙が範囲を狭めないようにします。
公開されている情報を組み合わせた資料は、秘密にできますか?
契約で秘密情報に含めることはできます。「一部に公知の情報が含まれても、組合せ・整理の方法・分析の方法などに秘密性が認められる限り秘密情報に当たる」と書いておく方法があります。
自社が別の会社と結んだ守秘義務を、外注先にどう守らせればよいですか?
自社が第三者から開示を受けた情報や、第三者との契約の存在・内容を秘密情報に含め、外注先にも同じ水準で守らせます。外注先の漏えいで第三者から請求を受けたときの賠償の条もあわせて置きます。
受け取った資料をもとに相手が作ったメモも、秘密情報になりますか?
「複製・要約・翻訳・加工して作成した情報」を派生情報として秘密情報に含めておけば、対象になります。返還・削除の対象にもなるので、契約の終了時の扱いとあわせて書いておきます。
取引していること自体を秘密にできますか?
「本契約の存在及び内容」を秘密情報に含めればできます。ただ、相手が実績として関与の事実を示せなくなるので、講師を務めた事実など、相手が示してよい事実を除外する書き分けも検討します。
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