このページの要点
- NDAは秘密の約束であり、給付の内容や報酬を示す3条の明示とは別の書類。NDAを結んだことで、条件の明示を済ませたことにはならない。
- 相手が対象かは、肩書きでなく従業員の有無と役員の数で決まる。5条の禁止行為は、1か月以上の委託が対象。
- 違反の疑いでの報酬の留保、返還・削除の証明を支払の条件にする運用は、4条・5条に触れ得る。請求と報酬は別の手続にする。
- 契約の存在や報酬額まで秘密にすると、相談・申出が封じられる。法令上の守秘義務を負う専門職、公的機関への開示は例外にする。
結論:NDAを結ぶこと自体は適法です。法が関わるのは「相手の確認」「条件の明示」「NDAの使い方」の三つの場面です
フリーランスや個人事業主に仕事を外注するとき、先に秘密保持契約書(NDA)を結ぶのは自然な運びです。NDAを結ばせること自体は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス法」)に反しません。ただし、NDAの条項や運用が、法律が発注者に課している義務や禁止行為と重なる場面があります。重なるのは次の三つです。
- 相手が法の対象かどうかの確認(2条)。NDAの署名欄に書かれる氏名や屋号だけでは、従業員の有無や役員の数は分かりません。
- 仕事の条件の明示(3条)。NDAは秘密の約束であって、給付の内容や報酬の額を示す書類ではありません。NDAを先に結んだことが、条件を示したことにはなりません。
- NDAの条項や運用が禁止行為に当たらないか(5条、6条3項など)。秘密保持違反を理由とする報酬の減額、返還・削除の確認まで報酬を払わない運用、相談先への開示の禁止などが典型です。
用語を先に整理します。「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者のうち、従業員を使用しない個人、または代表者のほかに役員がなく従業員も使用しない法人をいいます(2条1項)。いわゆるフリーランスです。「業務委託」とは、事業者がその事業のために、他の事業者に物品の製造や情報成果物(プログラム、映像・音声、文字・図形など)の作成、または役務の提供を委託することです(2条3項・4項)。この二つが、以降の説明の前提になります。
以降は、情報を出す側(発注者)の立場で、NDAを設計するときの法律との接点を順に説明します。NDAの形そのものの違いはNDAを結ぶ形の選び方で扱っていますので、ここではフリーランス法との関係に絞ります。
相手はフリーランス法の対象か。NDAに署名してもらう前に確かめること
結論から言うと、対象かどうかは、肩書きや屋号ではなく、従業員を使っているか、役員が何人いるかで決まります。個人事業主でも従業員を雇っていれば特定受託事業者ではありません。反対に、法人化している一人会社でも、代表者のほかに役員がなく従業員もいなければ、特定受託事業者に当たります(2条1項2号)。NDAの署名欄に「株式会社」とあっても、それだけでは判断できません。
発注者の側にも区別があります。特定受託事業者に業務委託をする事業者は「業務委託事業者」と呼ばれ、従業員を使用していない個人事業主であっても含まれます(2条5項)。そのうち、従業員を使用する個人、または、役員が二人以上いるか従業員を使用する法人は「特定業務委託事業者」と呼ばれます(2条6項)。条文は、3条の明示は業務委託事業者に、4条の支払期日と5条の禁止行為は特定業務委託事業者に、それぞれ向けて書かれています。
発注者の型と、NDAに関わる主な義務
| 発注者の型 | 3条(明示) | 4条(支払期日)・5条(禁止行為) | NDAを設計するときの注意 |
|---|---|---|---|
| 従業員を使用する個人事業主。役員が二人以上いる、または従業員のいる法人 | 対象(業務委託事業者) | 対象(特定業務委託事業者)。5条は1か月以上の委託が対象 | NDAの運用が5条・4条と重ならないかを、条項ごとに点検する |
| 従業員を使用しない個人事業主。役員が一人で従業員もいない法人 | 対象(業務委託事業者) | 対象外(特定業務委託事業者ではない) | 3条の明示は必要。NDAに代わる発注書を用意する |
取引の内容と発注者の規模によっては、2026年1月1日から名称が改められた中小受託取引適正化法(取適法。旧下請法)の対象にもなり得ます。その場合は別の規律も重なるため、発注の型ごとに対象を判定しておきます。
一つ、よくある思い違いを挙げておきます。NDAや契約書に「本契約にはフリーランス法は適用されない」「受注者は従業員を使用していないが、同法の保護は求めない」と書いても、法の義務はなくなりません。法の適用は、当事者の約束ではなく、事実(従業員の有無、委託の内容)で決まります。確認欄を設けるなら、「従業員を使用しているか」「法人の場合は役員の数」を事実として記載してもらい、状況が変わったら知らせてもらう、という使い方が考えられます。
もう一つ、5条の禁止行為は、委託の期間が1か月以上のものに限って適用されます(契約の更新によって1か月以上続くものを含みます)。また、役務の提供を委託する場合(運用、事務、コンサルティングなど)は、5条1項のうち受領拒否(1号)と返品(3号)が適用の対象から外れます。「短期だから対象外」と決め込むと、更新を重ねて1か月を超えたときに前提が崩れるため、NDAの段階で期間の見込みを聞いておきます。
NDAを先に結ぶとき:3条の明示とNDAを混ぜない
3条1項は、業務委託をした場合は直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(公正取引委員会規則で定められています)を、書面または電磁的方法で明示するよう求めています。電磁的方法とは、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法で、規則で定めるものをいいます。電磁的方法で示した場合に、相手方から書面の交付を求められたときは、遅滞なく書面を交付する必要があります(3条2項。例外は規則に定めがあります)。
NDAを先に結ぶ運用で起きやすいのは、NDAを「契約の始まり」と捉えて、条件の提示が後回しになることです。実務で多いのは、NDAを結んで資料を渡し、口頭で「ではお願いします」と合意して着手してもらい、請求の段階で初めて金額が確定する流れです。委託をした時点で示すべき事項が、示されないまま作業が進んでいます。NDAの中に「詳細は別途定める業務委託契約による」と書いてあっても、それは条件を示したことにはなりません。
外注の流れと、NDAと明示の置き場所
NDAは二つ目、明示は三つ目。二つの書類は別々に用意し、どの時点でNDAの定めが発注後の定めに引き継がれるかを、書面に書いておきます。
検討段階のNDAと、発注後の秘密保持の関係は、書面の形を決める段階の論点です(重ねて適用する形、引き継ぐ形、置き換える形の違いはNDAを結ぶ形の選び方で説明しています)。フリーランスが相手のときは、特に、検討段階のNDAを結んだ後に発注が成立した場合に、どちらの定めが働くのかを、発注書の側にも一言書いておくと、後で食い違いません。
第○条(業務委託契約への移行)【検討段階のNDAに置く一例】
1甲が乙に対し、本契約の目的である検討の結果として業務委託をする場合、甲は、その旨並びに給付の内容、報酬の額及び支払期日その他法令が定める事項を、委託をした後直ちに、書面又は電磁的方法により乙に明示する。
2前項の業務委託に関して別に秘密保持の定めを置く場合、その定めは、本契約に基づいて既に開示された秘密情報にも適用される。両者の定めが異なるときは、乙にとってより厳しくない定めを除き、前項の業務委託に関する定めが優先する。
第1項は、NDAが条件の提示を代わりに果たさないことを書面側で確認する条、第2項は、開示済みの情報の取扱いが発注の前後で途切れないための橋渡しです。
5条の禁止行為とNDAの条項の交差点:報酬、支払期日、やり直し、解除
秘密保持の条項は、違反したときの効果を決める条項でもあります。この「効果」の書き方が、フリーランス法の禁止行為と重なります。特定業務委託事業者は、1か月以上の業務委託について、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること(5条1項2号)や、自己の指定する物を強制して購入させ、または役務を強制して利用させること(同項5号)などをしてはなりません。同条2項は、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(1号)や、責めに帰すべき事由がないのに給付の内容を変更させ、または受領後にやり直させること(2号)によって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならないと定めています。
ここでいう「責めに帰すべき事由」の有無が、分かれ目です。受託者が実際に秘密を漏らしたのであれば、その処理は禁止行為の外にあり、損害賠償の請求や契約の解除という通常の手続で行います。問題になるのは、漏えいの事実が確定していない段階での報酬の留保や、秘密保持とは関係のない名目での差引きです。NDAの条項を、次のタイプごとに見ていきます。
NDAに入りがちな条項のタイプと、フリーランス法との関係
| 条項のタイプ | 関わる条文 | 問題になる理由 | 直し方 |
|---|---|---|---|
| 違反の疑いがある間は報酬の支払を留保する | 4条5項、5条1項2号 | 報酬の支払期日は法が定めており、疑いだけで止めると支払期日に遅れる。責めに帰すべき事由が確定する前の減額と見られるおそれもある | 報酬は期日に支払う。違反が確定したら損害賠償を別に請求する |
| 返還・削除の証明が出るまで最終報酬を払わない | 4条1項、5条1項2号 | 支払期日は、検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から60日以内で定める必要がある。証明の遅れが支払の遅れに直結する | 支払期日と返還・削除の期限を別々に設定し、証明は支払の条件にしない |
| セキュリティ機器・有料ツールの利用を指定する | 5条1項5号 | 自己の指定する物・役務を強制して利用させることは、正当な理由がある場合を除き禁止される。費用を受託者持ちにすると利益を害しやすい | 指定が必要な理由を示し、費用は発注者が負担するか、報酬に織り込む |
| 監査の受入れ、報告書の作成、研修への参加を無償で求める | 5条2項1号 | 役務を無償で提供させることは、受託者の利益を不当に害する場合に禁止される | 必要な範囲に絞り、工数を報酬に反映するか、発注者が実費を持つ |
| 取扱基準を変えたことを理由に、納品済みの成果物を作り直させる | 5条2項2号 | 責めに帰すべき事由がないのに、給付の内容を変更させ、受領後にやり直させる場合に当たり得る | 基準の変更は新たな発注として費用と期日を示す |
| 秘密保持違反を理由とした即時解除 | 16条1項 | 継続的業務委託(政令で定める期間以上のもの)の解除には、少なくとも30日前の予告が原則。例外は厚生労働省令で定められている | 解除条項を、予告の要否と例外の範囲に沿って整理する |
5条は特定業務委託事業者に向けた規定で、1か月以上の委託が対象です。1か月未満や、発注者が特定業務委託事業者でない場合でも、公序良俗に反する条項は無効になり得ます(民法90条)。
表の二行目は、実務で見落とされやすい点です。受領した日から60日という上限は、検査をするかどうかを問わず(4条1項)、決められています。次の例で確かめます。
計算例:返還・削除の確認を支払の条件にしたとき
| 項目 | 日付 | 受領日からの日数 |
|---|---|---|
| 成果物の受領(納品) | 4月10日 | 0日目 |
| 返還・削除の報告期限(受領から14日後) | 4月24日 | 14日目 |
| 支払期日(納品月の翌月末) | 5月31日 | 51日目(60日以内) |
| 削除の証明が遅れて6月20日に届き、そこから支払う運用 | 6月20日 | 71日目(60日を超える) |
返還・削除の確認と報酬の支払を一体にすると、証明の遅れが、60日の上限を超える原因になります。二つを別の期限に分けるのが、この例の直し方です。日付は説明のための仮の例です。
第○条(報酬の支払と秘密保持違反の請求)【一例】
1甲は、乙に対する報酬を、発注書に定める支払期日までに支払う。秘密情報の返還若しくは削除の報告、又は本契約に基づく調査の実施は、報酬の支払の条件とならない。
2甲は、乙が本契約に違反したと認めるときは、違反の事実及び損害の内容を記載した書面又は電磁的方法により乙に請求する。この請求は、前項の報酬の支払とは別に行い、報酬から差し引いてはならない。
3乙は、前項の請求の内容に異議があるときは、請求を受けた日から14日以内にその理由を甲に通知することができる。この場合、甲乙は誠実に協議する。
第1項は支払期日を守ること、第2項は請求と報酬を別の手続にすることを定めています。損害の有無や額は、請求の段階で議論します。第3項の期間は一例です。
申出・相談を封じない:6条3項と、NDAの「契約内容も秘密」という書き方
特定受託事業者は、取引の適正化に関する章の規定(3条の明示、4条の支払期日、5条の禁止行為など)に違反する事実があるとき、公正取引委員会または中小企業庁長官に、その旨を申し出て、適当な措置をとるよう求めることができます(6条1項)。就業環境の整備に関する章(ハラスメント対策や解除の予告など)の規定に違反する事実があるときの申出先は、厚生労働大臣です(17条1項)。業務委託事業者は、受託者が申出をしたことを理由に、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはなりません(同条3項)。違反には公正取引委員会の勧告(8条)、命令と公表(9条)の手続が用意されています。
NDAとの接点は、秘密情報の定義にあります。ひな形によっては、「本契約の存在及び内容」「報酬額その他の取引条件」を秘密情報に含め、第三者への開示を一律に禁じています。この書き方のままでは、受託者が報酬の水準を専門家に確かめたり、発注者の行為を行政機関に申し出たりすることが、NDA違反と読めてしまいます。申出を理由とする不利益取扱いが禁じられているのに、NDAで申出の材料を渡すこと自体を禁じるのは、制度の趣旨と合いません。
また、特定業務委託事業者は、ハラスメントに当たる言動で特定受託業務従事者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備その他の措置を講じなければならず(14条1項)、相談したことを理由とする契約の解除などの不利益な取扱いも禁止されています(同条2項)。発注者の社内で起きたことを相談する場合も、NDAが壁にならないよう、開示を許す先を書いておきます。
相談・申出とNDAの両立
出す側(開示者)の設計
- 秘密情報の定義から、本契約の存在、報酬額、受託者自身の就業条件を外す、または開示できる先を明示する
- 開示を許す先を、弁護士・公認会計士・税理士などの法令上の守秘義務を負う専門職、公的機関、法令に基づく場合などに列挙する
- 公的機関への申出・相談には、事前の通知や承諾を求めない
受け取る側(受領者)の点検
- 発注者のノウハウや第三者の情報まで、取引条件の名目で外へ出さない
- 相談先に渡すのは、取引条件と自身の就業条件に必要な範囲にとどめる
発注者のためにも、開示を許す範囲を先に書いておくほうが、「どこまで言ってよいか」の食い違いが減ります。
第○条(取引条件に関する開示)【一例】
1乙は、本契約の存在及び内容並びに報酬の額その他乙自身の取引条件について、第三者に開示してはならない。ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りでない。(1)法令に基づく場合(2)弁護士、公認会計士、税理士その他法令上の守秘義務を負う者に対し、その職務に必要な範囲で開示する場合(3)公正取引委員会、中小企業庁その他の行政機関に対し、申出又は相談のために開示する場合
2甲は、乙が前項第3号に基づく開示をしたこと、又は特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく相談若しくは申出をしたことを理由として、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。
3第1項の例外に基づく開示を行う場合でも、乙は、甲の技術上又は営業上の秘密情報(取引条件を除く。)を開示してはならない。
第3項で、取引条件の開示と、発注者の技術・営業上の秘密の開示とを分けています。例外を設けるほど、ほかの秘密情報との線引きが大切になります。
個人が相手のときに出てくる運用の論点:端末、補助者、並行する他社、連絡が取れなくなったとき
相手が会社なら、社内の規程や担当者の入れ替えで吸収できることが、個人では、本人の事情にそのまま現れます。個人向けのNDAで実務上よく論点になるのは、次の点です。
個人事業主が相手のときの論点
| 論点 | 起きること | 書き方の工夫 |
|---|---|---|
| 作業場所と端末 | 自宅や私物のパソコン、個人のクラウドで作業する。家族と共用の端末もある | 保存してよい場所と端末を承諾制にする。共用端末での保存を禁じる。画面の見られ方まで細かく書きすぎない |
| 補助者への開示 | アシスタントや外部の協力者に作業を分けることがある。役員・従業員の書き方では拾えない | 補助者に開示するときは事前の承諾を求め、同等の義務を課す。補助者の行為についての責任も定める |
| 個人データの取扱い | 顧客名簿や相談記録を渡す場合、委託先の監督が必要になる | 個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督が必要(個人情報保護法25条)。監査や報告は、個人の体制に合う範囲に絞る |
| 病気・事故・連絡不能 | 本人と連絡が取れず、秘密情報の入った端末の所在が分からない | 緊急連絡先、連絡が取れないときの発注者の対応、情報の削除を依頼できる人を、あらかじめ決める |
表の工夫は、一般的な書き方の一例です。端末や補助者の扱いは、扱う情報の重さに応じて強弱をつけます。
個人データを渡す場合の責任は、発注者に残ります。個人情報取扱事業者は、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる必要があり(個人情報保護法23条)、取扱いを委託するときは、委託を受けた者に対して必要かつ適切な監督を行わなければなりません(同法25条)。実務で多いのは、厳格な報告・監査の条項をそのまま個人事業主に当てはめ、実際には誰も運用できない状態です。運用できる水準に合わせて決めるほうが、監督として意味を持ちます。開示の線引きは目的外利用と開示の範囲と併せて点検します。
連絡不能の論点には、もう一つ、相続の問題があります。相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継しますが、被相続人の一身に専属したものは別です(民法896条)。受託者が亡くなった場合に、NDAの秘密保持義務が相続人に及ぶのか、一身専属として消えるのかは、契約の文言から直ちに明らかではありません。そこで、亡くなった場合の対応(遺族への連絡先、端末とデータの扱い、削除の依頼)を、条文として決めておく方法が考えられます。
第○条(受託者に事故があったとき)【一例】
1乙は、病気、事故その他の事由により本業務の遂行が困難になるおそれがあるときは、速やかに甲に通知する。乙は、甲が緊急時に連絡できる者の氏名及び連絡先を、あらかじめ甲に届け出る。
2乙と連絡が取れなくなったときは、甲は、前項の者に対し、秘密情報が記録された媒体の所在の確認、及び秘密情報の削除又は返還を依頼することができる。
3乙が死亡した場合、乙の相続人は、乙が保管していた秘密情報を、甲の指示に従い、遅滞なく返還し、又は削除する。この場合の秘密情報の取扱いについて、相続人は、本契約に基づく乙の秘密保持義務に準じて、これを第三者に開示しない。
第3項は、相続人が義務を負うかどうかの解釈に委ねず、返還・削除と非開示を条文で決めておく書き方です。実際の運用は、連絡先の届出が前提になります。
実績としての公表は、秘密保持の条項と、受託者の氏名表示の利益がぶつかる場面です。著作者は、その著作物を公衆に提供または提示するに際し、実名や変名を著作者名として表示し、または表示しないこととする権利を有します(著作権法19条1項)。この権利は著作者の一身に専属し、譲渡できません(同法59条)。成果物の権利を譲り受けても、氏名表示の扱いは別に決めておく必要があります。公表の可否は、段階を付けて決めると見通しがよくなります。
実績の公表を認める度合い上ほど強く縛る書き方
- 一切不可案件の存在、成果物、受託の事実のいずれも公表しない未発表の製品、他社から預かった案件が絡む場面
- 発注者の承諾制公表の都度、内容を見せて承諾を得る案件ごとに状況が変わる継続的な取引
- 非秘密部分に限り可公開済みの部分や、自分が独自に作った部分だけを載せる。秘密情報の混入は禁止制作物が公開される予定の案件
- 匿名なら可発注者名や案件名を伏せ、制作の概要だけを示す実績の紹介が受託者の営業に欠かせない場面
公表の可否と、氏名表示の扱い(表示する、表示しない、受託者の選択に任せる)は、別々に決めておきます。
よくある失敗と直し方:実務で見られる書き方から
個人事業主に出されるNDAや業務委託契約の秘密保持の条項には、受託者の側に偏った書き方が見られます。実務で多い書き方と、整え方の一例を並べます。
書き方の例(一般的な例) フリーランスに出すNDAの書き方
秘密情報の範囲
内容を問わない定義は、受託者が他の仕事で使う一般的な知識まで縛りかねない。発注者が守りたい類型を挙げたほうが、双方に分かりやすい。定義の方式は表示方式か包括方式かで比較している。
違反の責任
違約金は賠償額の予定と推定される(民法420条1項・3項)。事業として契約する個人には消費者契約法は適用されないが(同法2条1項)、損害の有無を問わない定めは、公序良俗の観点(民法90条)から争われ得る。設計は違約金・損害賠償の設計で説明している。
競業の制限
秘密保持のNDAに競業避止が混ざると、秘密を使わない仕事まで制限される。秘密の保護と競業の制限は、目的が違う。
複製の制限
全面禁止では、作業しているだけで違反になる。守れる条項にする。
実績の公表
実績の公表は、受託者の営業に直結する。発注者の秘密を守る線を引いたうえで、範囲内の公表を認めると、争いが減る。
表の中で、特に判断が分かれやすいのは違約金です。個人の受託者に定額の違約金を設定するときは、違反の態様を問わない一律の金額か、損害の額に応じた算定かを分けて考えます。軽微な違反にも同じ金額を請求できる設計は、請求する側から見ても、争いの種になりやすい書き方です。契約の定めとは別に、不正競争防止法も、営業秘密(秘密として管理されている事業活動に有用な技術上又は営業上の情報で、公然と知られていないもの。2条6項)を示された者が、不正の利益を得る目的などで使用・開示する行為を不正競争とし(2条1項7号)、差止めを請求できるとしています(3条)。秘密として管理されていることが前提になるため、NDAと運用をそろえておきます。差止めや事故報告の条の作り方は差止め・事故報告・監査と営業秘密で整理しています。
ヒヤリングで確認すること、起きがちなこと
NDAの文面を整える前に、相手が個人か会社か、どの情報を渡すか、委託の期間をどう見込むかを聞いておきます。これらの事実が、書面の作りに直結するためです。
ヒヤリングで確かめることフリーランスにNDAを出す前に
- 相手は個人か法人か。従業員を使っているか。法人なら役員は何人か特定受託事業者に当たるかを判断するため。署名欄の肩書きでは分からない。判断は2条1項の要件による。
- 自社は従業員を使っているか。役員は何人か自社が特定業務委託事業者かどうかで、4条・5条の適用が決まる。3条は自社が従業員を使っていなくても関わる。
- 委託の期間はどのくらいを見込むか。更新はあるか5条の禁止行為は1か月以上の委託が対象。更新によって1か月以上続くものも含まれる。
- 今、検討段階か、発注が決まっているか発注が決まっているなら、NDAと並行して3条の明示を行う必要がある。検討段階なら、発注後の引継ぎの条を入れる。
- 渡す情報の種類は何か(技術情報、顧客情報、個人データ、未公表の製品など)類型の列挙、複製の許容、個人データの監督の要否が変わる。
- 作業場所と端末はどこか。補助者は使うか私物端末や自宅での作業、補助者への開示の可否を条文にするため。
- 報酬の支払日と、返還・削除の期限をどう設定するか二つが連動していると、4条の60日の上限と衝突する。別々に決める。
- 実績としての公表を希望するか。発注者側の公表の事情は公表の段階を決めるため。氏名表示の扱いも合わせて確認する。
- 緊急連絡先を届け出てもらえるか連絡不能、病気、死亡のときの対応を、実際に動かせる形にするため。
相手が従業員を雇い始めた、法人化したなど、状況が変わったときの連絡も決めておきます。
条文例は考え方を示す一例です。業種や相手の所在で論点が変わる場面は、ソフトウェア・アプリ開発の再委託NDAや海外在住の講師・外注先とのNDAで扱っています。
よくあるご質問
フリーランスにも、通常の会社と同じようにNDAを結ばせてよいですか?
結ばせること自体は、フリーランス法に反しません。ただし、NDAは秘密の約束であって、給付の内容や報酬の額を示す3条の明示にはなりません。NDAとは別に、発注書やメールで条件を示します。条項の内容も、報酬の留保や相談先への開示の禁止など、フリーランス法の禁止行為や申出の保護と重なる書き方にならないよう整えます。
NDAに署名してくれるまで、報酬を払わなくてもよいですか?
報酬の支払期日は、特定業務委託事業者が給付を受領した日から60日以内で、かつできる限り短い期間内に定める必要があり、検査をするかどうかを問いません(4条1項)。着手した後で、NDAへの署名を新たな条件として、署名まで報酬の支払を止めると、支払期日に遅れるおそれがあります。署名は、秘密情報を渡す前の段階で求めるのが整理しやすい運びです。
秘密保持違反の疑いがあるときは、報酬を止めてよいですか?
受託者の責めに帰すべき事由がないのに報酬の額を減ずることは、1か月以上の委託では禁止されています(5条1項2号)。疑いの段階で止めると、支払期日にも遅れます。違反の事実が確定したときは、損害の内容を示して請求し、報酬の支払とは別の手続にします。
違約金を定めておくことはできますか?
定めること自体はできます。違約金は賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。ただし、違反の態様や損害の有無を問わない一律の金額は、公序良俗の観点から争われるおそれがあります(民法90条)。事業として契約する個人には、消費者契約法の消費者の規定は適用されませんが(同法2条1項)、請求できる額を、損害の額と関連づけて設計するほうが無理がありません。
NDAで、公正取引委員会などへの相談を禁止できますか?
禁止すべきではありません。特定受託事業者は、取引の適正化に関する規定(3条から5条など)に違反する事実があるとき、公正取引委員会または中小企業庁長官に申し出ることができ(6条1項。就業環境に関する規定の違反は厚生労働大臣、17条1項)、申出をしたことを理由とする不利益な取扱いは禁止されています(同条3項)。契約の存在や取引条件を秘密情報に含める場合も、行政機関への申出・相談のための開示と、法令上の守秘義務を負う専門職への開示は、例外として明記します。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、取引の内容や相手の立場によって結論が変わることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会