このページの要点
- 守れる・最大いくら・いつ終わる・ほかに何を約束させられているの四つの問いで、条項を赤・黄・緑に分ける。
- 赤は、複製の全面禁止、上限のない賠償、取引制限や成果の帰属の混入、終わりの読めない存続。代案を条文で添えて直す。
- 修正は、承諾の言葉を出さず、署名前に資料を受け取らず、理由と代案を付けて一度にまとめて、ご本人が進める。
- 雛形が変わらないときは、赤が残るなら署名しないか、受け取る情報を絞る。署名後は契約書の定めを日付に直して台帳で守る。
結論:厳しさではなく「守れるか」で読み、直す順番を決める
取引先から届いたNDA(秘密保持契約書。相手から預かる情報を、目的の外で使わず、第三者に漏らさないと約束する契約)の案は、全文を一度に直そうとせず、次の三つを先に見ます。①署名すると、仕事を進めること自体が違反になる条項。②賠償の額に歯止めがない条項。③秘密保持とは別の約束が紛れ込んでいる条項。この三つが整えば、残りは言葉づかいや手続の調整にとどまることがほとんどです。
情報を出す側(開示者)の案が厳しく見えるのは自然なことです。守りたい情報を渡すのですから、義務が重くなる方向に書かれます。受け取る側(受領者)が見るべきは、厳しさそのものではなく、その条項を守りながら普段の仕事が成り立つかどうかです。守れない条項に署名すると、働くたびに違反が積み上がり、違反を理由とする解除や賠償の根拠を相手に渡してしまいます。
契約の内容は、法令に反しない限り当事者が自由に決められます(民法521条2項)。署名の前であれば、何を提案してもかまいません。一方、署名したあとに約束を守らなければ、債務不履行として賠償の問題になります(民法415条1項)。「署名してから運用で何とかする」という考え方は、後ほど赤信号として整理する条項には通用しません。
点検から修正依頼までの流れ
このページは、案が手元に届いた受け取る側の視点で書いています。出す側が案を設計するときの考え方は、NDAをどの形で結ぶかや秘密情報の定義は表示方式か包括方式かで扱っています。
ヒヤリングで確認すること:読み始める前の問い
条文を読み始める前に、自分の側の事情を整理しておくと、「この条項は守れるか」の答えが出せます。答えが曖昧なまま条文だけを読むと、どれも問題がなさそうに見えてしまいます。
ヒヤリングで確かめること案を読む前に、自分の側で確かめておくこと
- 自分は情報を受け取るだけですか。こちらからも情報を出しますか受け取るだけの片務型なら、義務の重さがそのまま自分の負担になります。双方が出す相互型なら、同じ重さの義務が自分の情報も守ります。相互型で義務を軽くしすぎると、自分の情報の守りも弱くなる点まで見て決めます。
- 渡される情報は何で、どんな形で届きますか(紙・データ・口頭・画面共有・チャット)複製や保存の条項が守れるかは、情報の形で決まります。口頭や画面共有で届くものまで秘密情報と読める定義かどうかも、ここで分かります。
- 作業に関わる人は誰ですか。協力者・外注・アシスタント・家族はいますか。使う端末やクラウドは何ですか開示先の制限、再委託の承諾、従業員や協力者の違反について自分が全面的に責任を負う定めは、実際に誰が手を動かすかで重さが変わります。受け取った資料を文章生成AIなどの外部サービスに入力することが、開示先の制限や目的外の使用に当たり得る点は、NDAと生成AI・外部サービスへの入力で扱っています。
- この取引は単発ですか、継続ですか。契約期間と更新の見込みは自動更新と終了後の存続の定めが重なると、義務の終わりが読めなくなります。継続取引ほど、終わる日を計算できる書き方にする必要があります。
- 受け取る情報に近い仕事を、ほかの取引先ともしていますか同業の複数の取引先と仕事をしている受領者には、取引制限・競業避止・成果の帰属の定めが日常の営業に直接当たります。この問いの答えが「はい」なら、後ほど整理する赤の条項を特に厳しく見ます。
- すでに基本契約・発注書・利用規約など、別の契約がありますか秘密保持の定めが二つあると、期間や例外が食い違ったときにどちらが効くかが問題になります。優先関係の書き方は秘密保持の定めが二通りあるときの整理で扱っています。
- 署名する人の権限は足りていますか。本業の勤務先があり、副業として受ける仕事ではありませんか契約の存在そのものを秘密情報とする案では、勤務先への届出や申請に必要な開示が違反になることがあります。副業の場合は、その開示を例外にしてもらう必要があります。
- 修正が通らなかったとき、署名しないという選択肢はありますか代わりの取引先がなく、署名以外の道がない場合は、「雛形は変えられない」と言われたときの節のとおり、受け取る情報を絞る形で署名の可否を考えることになります。この答えによって、どこまで強く修正を求めるかが決まります。
点検の優先順位:条項を赤・黄・緑に分けて読む
届いた案の条項は、三つの色に分けて読みます。赤は、署名すると守れない、または責任に歯止めがないため、優先して直す条項です。黄は、運用すれば守れるものの負担が重く、直したい条項です。緑は、NDAとして通常置かれる定めで、原則そのまま受け入れてよい条項です。
条項の色分けの目安
| 色 | 条項の例 | 見分ける問い | 対応の方向 |
|---|---|---|---|
| 赤 | 複製・加工・保存の全面禁止 | 作業用の写しやバックアップなしで、この仕事ができるか | 業務に必要な最小限の範囲で認める |
| 赤 | 賠償に上限がなく、間接的な損害・弁護士費用・調査費用まで含む。違約金に加えて損害の全額も請求できる | 事故が1件起きたとき、最大でいくらになるかを数字で言えるか | 通常損害に限り、上限を置く |
| 赤 | 取引制限・競業避止・勧誘の禁止が秘密保持に混ざっている | ほかの取引先との通常の営業を続けられるか | 削除。残すなら対象・期間・地域を絞る |
| 赤 | 秘密情報に基づく成果の帰属を協議とし、協議が整うまで使用を禁止する | 自分が元から持つノウハウによる成果まで止まらないか | 権利を移転しないことと、独自の成果は受領者に帰属することを書く |
| 赤 | 存続期間が「永久」「公知となるまで」 | 義務の終わる日を契約書から計算できるか | 年数で区切り、営業秘密だけ二段にする |
| 黄 | 報告・通知の義務が受領者だけにあり、「直ちに」「程度を問わず」と書かれている | 自分の連絡体制で本当に守れるか | 双方の義務にし、重大な事故に絞る |
| 黄 | 管理状況の報告と、事務所等への立入調査 | ほかの取引先の情報に触れる調査になり得ないか | 書面の報告を原則とし、立入りは具体的な疑いがあるときに限る |
| 黄 | 開示先・再委託の事前の書面承諾。従業員や協力者の違反について、自分が全面的に責任を負う定め | 協力者に作業を分けられるか | 同等の義務を課すことを条件に開示を認め、責任は監督を怠ったときに限る |
| 黄 | 返還・消去を「直ちに」行い、証明書を出す | 引継ぎ期間や法令上の保存と衝突しないか | 期限を日数で定め、例外を置く(返還・廃棄・削除証明) |
| 黄 | 遠方の裁判所を専属の管轄(その裁判所だけで裁判をすると合意すること。民事訴訟法11条)とする | 訴訟になったとき、移動や費用の負担に耐えられるか | 被告の所在地とするか、協議を先に置く |
| 緑 | 目的外使用の禁止、善良な管理者の注意での管理、法令に基づく開示(通知を条件とする)、反社会的勢力の排除、権利義務の譲渡禁止、協議条項 | 双方に同じ重さで効く書き方か | 原則そのまま。片方にしか効かない書き方になっていないかだけ確認する |
色は、条項の見出しではなく、自分の仕事に当てはめた結果で付けます。同じ条項でも、受領者が一人で作業する場合と、協力者に作業を分ける場合とで色が変わります。
色を付けるときの問いは、次の四つです。①守れるか。②最大でいくらか。③いつ終わるか。④ほかに何を約束させられているか。五つの赤の条項は、この四つのどれかに答えられない条項です。
秘密情報の定義は、広さだけで色を決めません。「一切の情報」「明示の有無を問わない」という広い定義は、それだけでは黄ですが、違反に重い違約金や無制限の賠償が結び付いていると赤になります。何が秘密なのか受領者に分からない状態で、責任だけが重いからです。定義の型の違いは表示方式と包括方式の違いで扱っています。
黄の条項は、赤を通すための交換の材料になります。たとえば、立入調査や報告の義務を受け入れる代わりに、賠償の上限を置いてもらう、という組み合わせです。全部を赤のように強く求めると、相手にとっての本質(情報を漏らさせないこと)まで拒まれたと受け取られ、話が止まります。
よくある失敗と直し方:受け取る側に重く、業務の実態に合わない条項
受領者に重い案には、型があります。次の例は、実務で多く見られる書き方を踏まえて新しく書いたもので、特定の案の条文ではありません。直す側の文は、相手が受け入れやすいように、相手の目的(情報を漏らさせない)を残したまま、受領者が守れる形にしています。
書き方の例(一般的な例) 受領者に重い条項と、守れる形への直し
複製・加工の全面禁止
資料のバックアップ、作業用の写し、要約メモは、仕事をする以上ほぼ避けられません。全面禁止は、毎日少しずつ違反する条項になります。複製をなくすのではなく、複製物も同じ管理の対象にすることで、相手の関心に応えます。
取引制限が秘密保持に混ざっている
「いかなる第三者」「間接に」「利用して」が重なると、同業のほかの取引先との通常の営業にまで及びます。守りたいのは相手の取引先との関係なので、対象を相手の関係者に絞り、既存の取引を除きます。情報の保護という役割を超える定めなので、まず削除を求める進め方もあります。
成果の帰属を協議とし、協議が整うまで使用を禁止する
協議が長引くあいだ使えないという書き方では、秘密情報と混ざった成果の線引きがつかないまま、受領者の本業まで止まります。秘密保持契約は権利の帰属を決める契約ではないため、帰属は別の契約に分けます。成果の著作権を渡す旨が書かれているときは、翻案権など(著作権法27条・28条の権利)まで含むのかを確かめます。含むと特に書かれていなければ、これらの権利は譲渡した側に留保されたものと推定されます(同法61条2項)。
違約金と損害の全額賠償の併用
違約金は、特に定めがなければ賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。上乗せの請求を認める書き方か、予定にとどまる書き方かで、最大の負担額が変わります。上乗せを認める書き方なら、実質は青天井(賠償額に上限がないこと)と同じです。出す側が違約金をどう設計するかはNDAの違約金・損害賠償の設計で扱っています。
沈黙で損害額が確定する
返事をしなかったことで金額が決まる仕組みは、休暇や見落としで取り返しがつかなくなります。削除を求めるのが筋で、残る場合も、期間を長くし、異議は電子メールでもよく理由の記載を要しないとする程度が最低限です。
損害算定を理由とする資料の開示義務
帳簿や通信記録の提出を求められると、ほかの取引先の情報や、自分の価格・顧客の情報まで出さざるを得なくなります。ほかの取引先の情報は、それ自体が別のNDAで守られていることがあります。
立入調査
「必要と認めるとき」の判断が開示者だけにあると、いつでも立ち入れる読み方になります。頻度・方法・範囲を絞ります。
従業員等の違反を過失の有無を問わず連帯して負う
過失の有無を問わない責任は、退職した人や他社の協力者など、受領者が支配できない行動にまで及びます。民法の基本は、責めに帰すべき事由があるときに賠償を負うというものです(民法415条1項ただし書)。何をすれば責任を免れるかを行為として書けば、受領者は迷いません。
義務が終わる日が読めない
いつ公知になったのかは、受領者には分からず、争いの種になります。営業秘密(秘密として管理され、公然と知られていない、事業に有用な情報。不正競争防止法2条6項)に当たるものだけを二段目で守る形にすれば、相手にとっても大切な情報が守られます。年数で区切り、年数の目安はNDAの存続期間は何年かで扱っています。
九つの例に共通するのは、相手の目的を否定しないことです。情報を漏らさせたくないという目的は、受領者にも守る義務のある正当な目的です。修正の文では、その目的を残したうえで、「守れる行為」に置き換えるのが基本です。
修正案を条文にする:賠償の上限・存続・成果の扱い(計算例つき)
削除を求めるだけでは、相手は社内で承認を取りづらくなります。代案を条文の形で添えると、相手はそのまま採用するか、一部を直すだけで済みます。次の三つは、受領者の側から出す代案として新しく書いた条文例です。
第○条(損害賠償)
1受領者は、自己の責めに帰すべき事由により本契約に違反し、開示者に損害を与えたときは、その違反と相当因果関係のある通常の損害を賠償する。
2前項の賠償額は、本件の取引について受領者が開示者から受領した対価の総額を上限とする。ただし、受領者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合は、この限りでない。
3弁護士費用その他の紛争対応の費用は、相当な範囲の額に限り、第1項の損害に含める。
通常損害は、債務の不履行によって通常生ずべき損害をいいます(民法416条1項)。特別の事情による損害を広く含める書き方は、受領者にとって予見できない額になるため、上限と組み合わせて抑えます。
上限の置き方は、基準によって金額が大きく変わります。次の表は、月額10万円で6か月の業務委託を前提にした仮の数字で、三つの基準を比べたものです。
賠償額の上限の基準を比べる(数字は説明のための仮の例)
| 基準 | 計算 | 上限額 | 見立て |
|---|---|---|---|
| 受領する対価の総額 | 10万円 × 6か月 | 60万円 | 対価が決まっていれば分かりやすい。NDAだけを先に結ぶ段階では対価がなく、0円と読まれて相手が受け入れないことがある |
| 直近12か月に受領した対価 | 10万円 × 12か月(継続した場合) | 120万円 | 継続取引では、更新のたびに上限が見直される。取引の実績に連動する |
| 固定額 | 契約書に「100万円」と書く | 100万円 | 取引の規模と無関係に決まる。受領する対価が小さいと、受領者には相対的に重い |
NDAを業務委託契約より先に結ぶ場合は、「対価の総額」では上限が決まりません。そのときは固定額にするか、後で業務委託契約が成立したらその対価を基準に切り替える、と書いておきます。
第○条(存続期間)
1受領者の秘密保持義務は、本契約の終了の日から○年を経過した日に消滅する。
2前項にかかわらず、不正競争防止法第2条第6項に定める営業秘密に当たる情報であって、開示者が書面により特定して受領者に通知したものについては、営業秘密でなくなる日まで、義務は存続する。
営業秘密とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報で、公然と知られていないものです(同法2条6項)。開示者が特定して通知する形にすると、受領者はどの情報が二段目の対象なのかを知ることができます。
第○条(権利の帰属)
1本契約は、秘密情報に関する権利を受領者に移転し、又は許諾するものではない。
2受領者が従前から有し、又は秘密情報を用いずに得た知識、技術及びノウハウとその成果は、受領者に帰属する。
3当事者の双方が関与して成果が生じたときの権利の帰属と利用の条件は、別に書面又は電磁的記録で定める。その定めがない間も、受領者は、秘密情報を用いない範囲で自己の業務を行うことを妨げられない。
営業秘密の侵害に対しては、契約の定めがなくても、不正競争防止法に基づく差止めなどの請求が可能な場合があります(同法2条1項7号、3条)。開示者は、契約だけに頼って守るわけではない点も、相手に説明する材料になります。
差止めの定めや、事故が起きたときの報告の定めを開示者がどう設計しているかは、NDAの差止め・漏えいの事故報告・監査と営業秘密で扱っています。受領者としては、そこで示される報告の期限や監査の範囲が、自分の体制で守れるかを黄の条項として確かめます。
修正の依頼は、どのように進めればよいですか?
契約の当事者は、案を受け取ったご本人(会社であれば会社)です。修正の依頼を送るのも、先方の回答を受けるのも、当事者であるご本人です。相手の法務担当者が出てくる場面でも、取引の窓口とやり取りする場面でも、進め方の骨格は同じです。
- 承諾の返事を出さない。契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成などの方式は要りません(民法522条2項)。メールで「問題ありません」と返しただけでも、成立したと評価される余地があります。「内容を確認して、○日までに回答します」と返し、点検が終わるまで合意の言葉を書きません。
- 署名の前に、資料を受け取らない。署名前に届いた資料も対象にするという定め(締結前に開示された情報にも適用する、という書き方)があると、後から義務がさかのぼって及びます。署名前に資料が届いてしまったときは、その事実を記録に残し、扱いを先方に確認します。
- 点検表を作る。条項番号、色(赤・黄・緑)、守れない理由、代案を、一覧にします。理由は「協力者に作業を分けるため」のように、業務の事実で書きます。
- 修正案は一度にまとめて出す。赤の全部と、黄のうち特に負担の重いものに絞ります。三十か所を超える修正は、重要な三点が埋もれ、一括で断られる原因になります。語尾や表記の好みの修正は、出さないか、最後にまとめます。
- 各項目に理由と代案を添える。相手の目的(情報を漏らさせない)を認めたうえで、「この書き方だと、○○のため守れないので、△△としたい」と書きます。削除の依頼だけでは、相手は代替の手段を示せません。
- 変更履歴を残す。相手の書式に直接書き込む場合は変更履歴を付け、版ごとに日付を入れて保存します。口頭で合意した点も、メールで確認して記録に残します。
- 合意は最終版の契約書に載せる。「実際には問題にならない」という担当者の言葉や、メール本文の約束は、署名した契約書に載っていなければ、後で拘束力を主張しにくくなります。契約書の末尾に、この契約が当事者間の合意のすべてであることを確認する条を置く案もありますが、その場合は、載っていない約束が消えることを前提に最終版を確認します。
譲る順序は、黄から先に譲り、赤は代案を示して粘る、が基本です。赤を譲ると、署名後に守れない約束を抱えることになります。相手が海外の事業者の場合は、準拠法や言語の確認が加わります(海外在住の講師・外注先・取引先とのNDA)。
よくある疑問と答え修正の依頼をめぐる、よくある疑問
- 修正を頼むと、心証が悪くなりませんか修正の依頼そのものが失礼にあたるわけではありません。理由が業務上の事実で、代案が付いていれば、先方の担当者も社内で説明しやすくなります。心証を左右するのは、依頼の多さと、理由の有無です。
- 相手の書式に直接書き込んでよいですか変更履歴を付ければ問題ありません。履歴を付けない書き込みは、どこを直したのか相手に伝わらず、気づかない変更が通ってしまうおそれがあります。別紙の修正案を添える方法もあります。
- 「他社もみなこの内容で署名している」と言われたらほかの受領者の事情は確かめようがありません。基準は、自分の仕事で守れるか、責任の最大額を受け入れられるかです。他社が署名していることは、自分の業務に当てはまる理由になりません。
- 「急ぎだから、先に署名して」と言われたら急ぐ理由を確認します。署名前に資料を受け取ることは避け、急ぎなら、赤の条項だけを直した版で先に署名して、残りは後で調整する、という進め方もあります。署名前に資料が先に渡ると、点検の機会が失われます。
「雛形は変えられない」と言われたら、署名してよいですか?
赤の条項が残っているなら、そのままの署名は避けます。黄だけが残っているなら、運用で守る体制を整えたうえで署名してよい場合があります。選べる道は三つです。
- 受け入れて、運用で守る。赤がなく、黄が残る場合の道です。守れる範囲を作業の手順に落とし込み(保存先・開示先・連絡窓口)、記録を残します。
- 範囲を絞って署名する。この契約の対象とする案件や資料を限定してもらい、受け取る情報を最小限にします。追加の資料は都度、対象に含めるかを確認します。赤が残っても、受け取る情報が少なければ、責任の最大額も小さくなります。ただし、赤の条項が残る事実は変わらないので、期間と情報の量を限る前提で選びます。
- 署名しない。守れない約束を抱えたまま仕事を始めるより、取引を見送るほうが損失が小さい場合があります。取引が必須でなければ、最後の選択肢として、いつでも使えます。
契約が基本契約の中の秘密保持の条として出てきた場合も、考え方は同じです。条の数が少ないほど、定義・期間・返還・責任の定めが薄くなりがちで、終了や解除と一緒に効力を失う読み方をされる余地もあります。形の違いはNDAを結ぶ形の選び方で整理しています。
署名したあとは、守る側の仕事が始まります。契約書の文言は、日付に直して台帳に書いておくと、期限を逃しません。次の表は、仮の日付で、契約書の定めを日付に直した例です。
契約書の定めを日付に直す(日付は説明のための仮の例)
| 項目 | 契約書の定め | 日付に直した例 |
|---|---|---|
| 有効期間 | 締結日から1年 | 2027年4月1日から2028年3月31日まで |
| 更新を止める期限 | 期間満了の3か月前までに、いずれかが終了の意思表示をしないときは、さらに1年更新 | 2027年12月31日までに通知しないと、2029年3月31日まで更新される |
| 義務が続く期間 | 契約終了の日から3年 | 終了日が2028年3月31日なら、2031年3月31日まで |
| 返還・消去の期限 | 契約終了の日から30日以内 | 終了日が2028年3月31日なら、2028年4月30日まで |
「満了の3か月前まで」のような書き方は、数え方で日が変わることがあります。契約書の文言を日付に直した結果を、相手とメールで確認しておくと食い違いを防げます。解約で終了日が早まる場合や、更新で延びる場合は、存続期間の終わりも動きます。
台帳に書いておくとよい項目は、次のとおりです。
- 受け取った日、情報の種類、届いた形(紙・データ・口頭・画面共有)
- 保存した場所と端末、アクセスできる人
- 開示した相手(協力者・外注)と、その相手に課した義務の記録
- 返還・消去の期限、更新を止める期限、義務が続く期間の終わり
- 受け取った資料を外部のサービス(文章生成AIなど)に入力してよいかの確認結果
起きがちなこと
よくあるご質問
NDA案が届いたら、すぐに「承知しました」と返してよいですか?
避けます。契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成などの方式は要りません(民法522条2項)。メールの返事が承諾と評価される余地があるため、「内容を確認して、○日までに回答します」と返し、点検が終わるまで合意の言葉は書きません。署名の前に資料を受け取ることも避けます。
全部の条項を直さないといけませんか?
いいえ。守れない条項、賠償に上限がない条項、秘密保持と別の約束(取引制限・成果の帰属・競業など)が混ざった条項の三つを赤として先に直します。負担の重い黄の条項は、赤を通すための交換の材料にします。目的外使用の禁止や反社会的勢力の排除などの通常の定めは、片方にしか効かない書き方でない限り、そのまま受け入れてかまいません。
修正を断られて、「雛形は変えられない」と言われたら?
赤の条項が残るなら、そのままの署名は避けます。選べる道は、運用で守る(赤がなく、黄が残る場合)、対象の案件や資料を絞って署名する、署名しない、の三つです。赤が残る場合は、受け取る情報と期間を限る前提でなければ、署名しない選択も含めて考えます。
賠償に上限がないNDA案は、どう直せばよいですか?
賠償を、違反と相当因果関係のある通常の損害に限り(民法416条1項)、受領した対価の総額などを上限とし、故意又は重大な過失による場合は上限の外に置く、という代案を条文で添えます。NDAを業務委託契約より先に結ぶ場合は、対価がないため、固定額にするか、後で成立した業務委託契約の対価に切り替えると書きます。
個人事業主やフリーランスでも、消費者契約法で守られますか?
守られません。消費者契約法でいう消費者は、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合の個人を除いた個人です(同法2条1項)。事業のために結ぶNDAは対象外になるため、後から条項の無効を主張することに頼らず、署名の前に直すのが基本になります。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、取引の内容や相手の立場によって結論が変わることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会